恋をしよう!
何だか寂しかった。

すぐそこに…それも目の前に荻原がいるのに、彼女は僕を見てくれない。

あふれんばかりの拍手で声を出したら、消えてしまうのは間違いないだろう。

――僕を見て

心の中で呼びかけてみるけれど、荻原は僕に視線を向けてくれなかった。

上からだんだんと幕が下りて行った。

「――荻原…!」

僕の声は拍手の中へと消えて行った。

最後に荻原はクラスメイトたちと一緒に観客に向かって深く頭を下げた。

観客からのあふれんばかりの拍手を受けながら、幕は下りて、荻原の姿を消して行った。

誰よりも僕が1番近くにいるはずなのに、荻原が遠くに行ってしまったのを感じた。

「いやあ、おもしろかったー」

「かわいいうえに演技が上手となると、もう女優になった方がいいんじゃね?」

あちこちからあがる感想を聞きながら、僕は静かに体育館から立ち去った。
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