ノーティーアップル
「びっくりしたー偶然だね。凪くんって意外と私服オシャレなんだ。スーツのときとイメージ違うから、一瞬誰だかわからなかった」
笑顔で近づいてきたかと思うと、開口一番そんなことを言われて調子が狂ってしまった。
確かに着るものには気を使ってる方かもしれないけど。
「そんなことないですよ。山下さんこそ、会社だと可愛らしいイメージだったのに私服は大人っぽいんですね」
こんなことを言ったら口説いてると思われるだろうか。それともセクハラで訴えられるか。
慣れ親しんだ女友達以外と話す機会なんてなかなかないから、返答に困ってしまった。
「えーそうかな、ありがとうございます。今日は飲み会帰りか何か?」
「あ、ごめん酒くさい?」
焦って一歩後ろに下がると、高い声で笑い出す彼女。
「いや、少し顔が赤かったんで。匂いは気にならないよ。
あの、無理なら全然断ってくれて構わないんだけど…よければ一杯付き合ってくれません?
私も飲んできたんだけど、ちょっと飲み足りなくて。ちょうど友達に連絡しようかなーって思ってたの」
予期せぬ展開に驚いたけど、極力顔には出さない努力はしたつもりだ。
時刻は23時前。流れに身をまかせるのも面白いかもしれない。
「いいですよ。そしたら、この大通りから一本入ったところに何度か行ったことがあるバーがあるんだけど、どうかな。わりと雰囲気もいいと思うんだけど」
極力落ち着いた声でそう返した。
「ほんとに?やった!凪くん同期の中でもあんまり飲み会とか来ないじゃない?一回ちゃんと話してみたかったの」
子供のように無邪気に笑う彼女を見て心臓が跳ね上がったのを今でも覚えている。