ノーティーアップル
大通りを曲がって少し歩いたところにある、ほんのりと明かりがついた小さな店の前で足を止めた。
小さな看板には“bar eve”の文字。
「あー!ここ知ってる、雑誌で見て気になってたとこだ!凪くんこのへん詳しいの?」
こちらが紹介する前に彼女が大きな声ではしゃぎだした。
完璧にペース持ってかれてないか…?
「僕も前友達に連れてきてもらってさ。気になってたお店ならよかった。入りましょうか」
少し重たいガラスのドアを開いて店内に足を踏み入れた。
初めて見る女性の店員がカウンター席に僕らを案内した。
少し高い黒い革のスツールに腰掛ける。
改めて隣に並んでみると、暗い店内に映える彼女の肌の白さがやけに気になった。
「可愛らしいカクテルがいっぱい。何飲もうかなー」
着席早々メニューをめくりながら彼女がつぶやいた。
「お兄さん、フルーツ系の甘いカクテルでオススメって何ですか」
その数秒後にはカウンター越しにバーテンに話しかける彼女。
彼女の行動についていくのでいっぱいになっている自分に気づく。
「そうですね、シードルとかお好きですか?シードルを紅茶リキュールで割ってシナモンとかスパイスを加えたカクテルがうちでは女性のお客様に人気なんですけど…」
自分たちよりも少し年上の爽やかなバーテンダーがそう返した。
「シードル、いいですね。じゃあ私それで。凪くんは?」
「んーじゃあ僕はビールで」
かしこまりましたと言ってバーテンダーはグラスを取り出した。