恋を届けるサンタクロースvol.2~美由紀~
「じゃ、東さん、ちょっとこっち来て手伝って」

 店長さんに言われて、私は彼に続いて店の奥の大きな冷蔵庫に向かった。店長さんが冷蔵庫からチキンを取り出し、この店秘伝(と彼が言っている)スパイス類をかけて揉み込み始める。

「ところで、東さんはサンタクロースにどんな願い事をしたんだい?」

 店長さんに訊かれて、私は首を傾げる。

「サンタクロースにですか……」

 信じてたら欲しいものを届けてくれるって子どもの頃は信じてた。

「もう一度信じてみようかな……」
「なにか欲しいものがあるの?」
「欲しいものっていうか……私の勝手なお願い事です」
「どんなこと?」

 店長さんに訊かれて、私は視線を足もとに落としながら言う。

「笑顔に……なりたいなって……。この三ヵ月、笑えてない気がするから……」

 敦紀に振られて、失業して……それ以来、笑えなくなった気がする。

「そうだねぇ。この国では『笑う門には福来たる』って言うもんねぇ」

 店長さんは忙しそうに手を動かしていたが、味を馴染ませたチキンをタッパーに入れ始めた。
< 6 / 21 >

この作品をシェア

pagetop