☆Friend&ship☆-妖精の探し人-
スイムを拾ってから数日経った。
今日も窓を拭き終えたセレンはストン、とはしごから降りてはしごを小さく畳む。
「ねえ、セレンお兄ちゃん」
人形のような体に黄色のつなぎを着て、つばつきの赤い帽子の上にポンポンのついたペンギン帽子。
くちばしがゆらゆら揺れている。
「うん、セレンお兄ちゃん?あのね、お姉ちゃんの事なんだけど…」
「シルンなら甲板にいるぞ。支離滅裂な性格だが子供には一応優しいはずだ」
セレンはスイムを振りきろうと足早に歩き出す。
残念ながらスイムの足では全力疾走しても追い付けない歩幅なのでスイムは諦めた。
「冷たいなぁ、セレンお兄ちゃん」
メインルームに吹き抜ける風がスイムの髪を揺らす。
ずいぶんと広い円形の部屋だ…そしていくつかの部屋へ繋がるドアがある。
部屋の中なのに林があったり、その中にはブランコがあったり。
近くには気持ち良さそうなカフェテラスのような薔薇園。
青、ピンク、橙とカラフルに咲き乱れる薔薇は一年中咲いている。
そして、赤い薔薇は1つもなかった。
別の方向に目を向ければ、機能的なシステムキッチンに付属しているバー。
その手前にはやっぱり透明な黄緑のテーブル。
足には酷く綺麗な装飾が施してあった。
セレンがやったらしい…一体どういう天才なのだろう。
キースが案内してくれたところによれば、この船にはなぜか異常に大きい図書室があるのだと言う。
図書室に続く魔法陣はそれこそ無数の魔法陣と共に透明のガラスの部屋の向こうにある。
入り口から入ってきてもっとも遠い部屋、そこが船長ヘリオの部屋だ。
向かって左隣はシルン、右がキングの部屋。
ウィングとキースの二人部屋がシルンの隣にあり、キングの部屋の隣にセレンの部屋がある。
どういう訳かヘリオの部屋、キングの部屋、セレンの部屋は全て奥の部屋で繋がっているらしい。
その部屋がなんなのかは永遠の謎らしいけど。
入口は六時に中心の大樹の二時の地面には地下へ続く螺旋スロープ(坂)がある。
その下には上から工具室(セレンが鉱石の加工に使っているらしい)、ボトルシップ保管庫と簡易港。
陸用と海用、川用、雪山用といろいろ種類はあるらしい。
最下層には地下牢。
何に使っているのかは分からないが、常に囚人の呻き声がきこえてくる。
広さはセレンでさえよくは知らないらしい。
音の反響で多少は把握できるらしいが、声と、複雑に入り乱れて配置されている檻で出した音は返ってくる前に消えてしまう。
全てを知っているのはキングとヘリオのみ…だそうだ。
大樹の中にはこれまた大きな螺旋階段がある。
当然動いているので、乗っていれば数秒で頂上まで着く。
螺旋階段の中心には円柱型の透明の筒がはめられ、中にはコンパスが安置されている。
甲板に出ると空には満点の星が瞬いて幻想的だった。
重力を満たすこともできるのだが、ドーム型のバリアを満たすには莫大な量の気体がいる。
よって滅多に重力は作られることはないのだ。
だからといって全く無重力な訳でもなく、甲板は引力を強く発生させる特殊な木でできている。
強くとはいってもそれは星の引力に比べればごくごく小さく、歩けばふわふわと体が浮くのが感じられた。
船の後方には潜水艦のようなハッチがあり、その下には緊急治療室があるらしい。
緊急治療室はそのまま薬剤棚や医務室と繋がっている。
甲板は広く、特に前方はちょっとした公園くらいの広さがあった。
天体観測のできそうな台があって、使うときにはきっと立派な天体望遠鏡が置かれるのだろう。
船尾から五メートル程は少し上がっていて温室のように透明なドームに囲まれている、その中には大きなテーブルセット。
普段はアクアリウムの中にあるのだが、たまに出ている。
メインルーム程ではないが一家のダイニングテーブル程はあるそれらは、着陸時にはドームごと船内に自動的に納められるのだとウィングが言っていた。
もともと探検好きなスイムのこと、それらの情報をもとに数日のうちにあっちこっち行ってみたのだった。
全てを設計したのがセレンなのだから一体どういう頭の作りをしているのだろうか…
セレンに言われた通り甲板に出たスイムは、別に探してはいなかったがシルンを探す。
そしてそのドームの中にいるシルンを、スイムは見つけたのだった。