☆Friend&ship☆-妖精の探し人-

ベッドに安らかに寝かせられた二人に、キースは首を振った。

「…駄目だよ、ヘリオ」

静かに、涙をこらえてそう言ったキースにヘリオは唇を噛んだ。

「死んでる…」

バラバラになったシルンの身体をそっと撫でながら、ヘリオはその言葉を聞いた。

「…」

シルンとはうって変わって眠っているようなセレンは今にも起き出しそうだった。

ヘリオは振り返って両手の手袋を外し、そっと頬をなぞる。

「セレン」

首筋に脈が感じられないことがなによりの証拠だった。

最後の微笑みは微かながら口元に刻まれていて、永遠に見ることができる笑顔に、ヘリオは嬉しいような気分すら感じた。

「…なあ、起きろよ。セレン」

もっと笑えたはずなのに。

もっと、幸せを知るはずだったのに。

本物の愛情を受けられるように。

人並みの、当然の人並みの幸せすら知らないセレン。

笑うことすら、自分に許せないセレン。

こんな、何故。

「…」

あまりに報われないその死に、せめて安らかだったことに救いを求めるほどヘリオはものわかりが良くなかった。

「…キング」

「…はい?」

「冷凍庫。一番でかくて冷たくてさ、できれば無重力のやつ」

「…本気か?無理だ、死後どれだけ経ってると思って…」

キングの忠告に、ヘリオは短剣で応えた。

「…」

「つべこべ言うな。探せ」

肩をかすった短剣は、深く背後の壁に突き刺さって。

キングは黙って出ていった。


「キース、オペ。シルンの身体、使い物になるように治せ。人工の臓器も軽くストックしてあるし、使えるもん何でも使え」

キースはその言葉にゆるゆると首を振った。

「…無理だよ。もう、原形留めてないから。身体の治療よりは、一から作ることになっちゃう。それは僕の専門じゃない」

「…」

腐った皮膚の欠片から覗く、辛うじて残った心臓。

眼球が零れ、パックリと空洞が開いた瞳。

頭蓋骨の色すらチラリと見え、溢れた脳が滴って。

それでも、目を反らすことなんてできないのだ。

「なんとか、しろよ…っ!」

ぐちゃぐちゃのシルンの…ギリシス=イーリスの身体は、それでも仲間の身体なのだ。

ずっと、最も一緒に長くこの船で旅をした二人の死。

それはヘリオの中で嫌な差があったが、それでも悲しいことにはかわりない。

埋められることのない溝は、二度と輝くことのない虹色の髪と同じように。


光を失った。


「なんで、なんでだよ…」

何故俺を残して死んだんだ。

何故俺を遺して死んだんだ。

帰ってきて、お願いだから。

財宝ならほら、セレン。

お前が遺したあの莫大な財産は、何百年経っても使える気がしないんだよ。

お前の部屋のあのアクセサリー、どう処分しろって言うんだよシルン。

なあ覚えてるか、キングとしばらく四人で旅したろ?

あんときのセレン、すっごい病んでるっていうか、くらーい感じでさ。

シルンも、俺と一緒に必死で慰めてたよな。

なあ、俺達はずっと知ってるんだよ、シルン。

お前の過去も、ぜぇんぶ。

セレンは優しいから、シルンにも優しくするんだよ。

それが妬ましくってさ、俺。

しょっちゅうシルンにちょっかいかけてたの覚えてる?

セレン。

シルン。

まだまだ、話したいことなんて山ほどあるんだよ。

やりたいことも知りたいことも。

なあシルン、俺一回、お前とバトミントンしてみたかったよなぁ。

セレン、お前とは二人っきりで長くいたけど、まだ教えたいこといっぱいあったんだよ。

セレン、来年誕生日にグランドピアノ買ってほしかったんだろ?

知ってたよ、セレン音楽大好きだもんな。

もっと聞きたかった、セレンの声、シルンの声。

もっと見たかったよ、セレンの表情、シルンの表情。

嗚呼ねえ、俺も連れてって。

二人がいるところに、連れていってよ…


泣きじゃくるヘリオに、キースも泣いた。

なんとなく、不死身な気がしていたのに、あっけなさ過ぎる。

ドラマもなにもあったもんじゃないや、とキースは泣いた。

ちょっと前までいつもみたいに、一緒にしゃべってたのにね。

船中が真っ赤な血で溢れて、気がつけば。

二人はもう会えないところに行ってしまった。


キースのその震える体をだきしめて、ウィングは黙っていた。

こんな自分が嫌で嫌で仕方ない。

ヘリオのように、キースのように泣きたいのに。

悲しみたいのに何故俺は。

自分じゃなくて良かったなんて思えるんだ。

何故当たり前のように悲しめないんだろう。

それが長い間全てを裏切って生きてきた代償なのだとしたらなるほど。

泣きたいときに泣けないのがこんなに辛いなんて思わなかった。

これほどに自責の念に囚われるなんて。


ポタリ、セレンの頬に落ちた涙を拭き取ってヘリオはガクッと膝を折った。


これが悲しみでないのなら、悲しみってなんなんだろう。


失われてはならなかった二人の死は、あまりにも残酷だった。

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