☆Friend&ship☆-妖精の探し人-
「…嫌な見せ物ですね、ヘリオさん」
超強化ガラスの屈折で歪んで見えるそれに、ゼロは無意識に手を伸ばした。
「…嗚呼…」
「…」
ガラスの冷たさに堪らず溢れた涙に、無情にもそれは届かないことを嫌でも感じさせられた。
「…L…君…っ…」
フワリと浮かんだ四肢は眠るような安らかさで、自由に無重力空間を漂っている。
鎖の1つも纏ってなどいない、自由な。
生きている時には滅多に見せることの無かった優しい、幸せな微笑。
幼い彼を彷彿とさせるその表情は、酷く完全だった。
悲しみに我にかえれば、次に襲ってくるのは耐えられないほどの喪失感、そして恐怖。
「…」
この世で一番失われてはいけなかった命が失われたという事実、最も貴重な頭脳が封じられたという現実。
それは一人の少年の死としては些か大きすぎる苦しみで。
それはそのまま彼が与えた世界への、人々への、そしてゼロ自身への影響の大きさを示していた。
最後まで、彼が気がつくことは無かったようだけど。
「ヘリオさん」
「…んだよ」
「…L君は最後になにか」
「時間たちすぎた。もう、全然覚えてない」
ヘリオは、そういってゆっくりゼロを見上げた。
「…はっ…汚い顔」
「鏡を見ているんですか?」
挑発的にそういってから、ゼロは悲し気に微笑む。
ヘリオは一瞬ニッと笑って、また辛そうに顔を伏せた。
「…ゼロ」
「何ですか?」
「アンドロイドってさ、時間の流れとか、違ったりする?」
「…いいえ、私が思う限りでは」
「あのさ、俺。絶対…あいつらのこと全部覚えてる自信あったんだ」
でもさ、ちょっとずつだけど消えてくんだよ。
あいつらが死んで、まだ3日と経って無いのにさ。
もう俺、あいつらの声忘れかけてる。
思い出も、ちょっとずつ消えてく。
「恐いよ、ゼロ」
いつか俺、あいつらのこと忘れるのかな。
「俺の種族は、そういう運命なのかな、そうなのかな、ねえゼロ…」
「ヘリオさん」
ゼロはそっと、優しくヘリオに笑いかけた。
「きっと、大丈夫です」
漠然とした慰めに、でもそれなら一体どうすればいいのだろう。
答えを持つのが神ならば、不公平だ。
それを持ちながら与えないのは。
間違ったものを与えるよりたちが悪い。
「…望むしかないでしょう?船長さん」
あれほどに彼は神を信じていたのに。
救いなんて与えられなかった。
誰も救われない世界で今日も、どこかの誰かが幸せになっていくのだろうと。
ゼロは神を憎んだ。