☆Friend&ship☆-妖精の探し人-
「ったくもぉー。広いわ広い。ゼロに我慢してでもちゃんと案内してもらうべきだったか」
ウィングはぶらぶら歩きながら時たま壁を見ては立ち止まっていた。
「…お、これ無限降下法?あ、こっちは六次方程式じゃーん」
電子版に勝手に描かれていく数式に、ウィングはにこにこしながら立ち止まる。
「…すげえ、ここは数学フロアか」
下の階は化学フロアで、そこかしこにHeやOなどの元素記号が飛び交っていた。
それより下は医学、それも解剖学フロアでさっぱりわけがわからない上に気持ち悪かった。
これより上は生物か歴史か微妙なところだったので、ウィングはこのあたりをぶらぶらしていたのだ。
「…つか、これを全部あいつが書いたっぽいんだよな…」
9が、αのような形になっている。
セレンの癖だ。
他にもNは二画に分けるせいでAの横棒がなくなったようなのにIが突き刺さっているような形だし、Qは最後の点が円を二つに割っている。
結構な時間、セレンはこの建物で過ごしたらしい、とウィングはそう思った。
「…なんか、声しねぇ?」
それはわずかな声で、この先から聞こえてくる。
たまに書いてある可愛らしいウサギ入りのサインに苦笑いしながら、ウィングはそちらに向かった。
「いい加減に出ていってください!!」
「えーゼロぉ、一緒に表通りのカフェにいこーよー」
「また石を投げつけられに行くんですか?背は低いですがあのクルーはイケメンぞろいですよ…ああ、たしかキングさんはあなたより高かった気がします」
これはゼロかな、と。
ウィングは今度は女の声の方に聞き入った。
「やだ、私黒髪が好き」
「聞いたことありません」
「それで、すっごいおっきい隈がある人が好み~」
「ロメさん!!」
「もぉー私のぜろぉん♡」
「…だれだよ」
どうやら女の方はゼロが好きらしいけど…
あれのどこが好みなんだろうか?
いやダメだろ、あれはだめだろ…
ウィングはそっと扉を開けて、中を覗き込んだ。
「う、うぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」
「!?ウィ、ウィングさん!?」
ゼロが勢いよくこっちを見た。
「ちょ、ちょいまちお前誰!?」
「何を言っているんですか!?」
「あ、あ、うそだろ…」
ウィングは空に向かって吠えた。
「ゼロはだめだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」
「何がですか!?」
ゼロは半ば叫ぶようにそういって、何とかウィングを正気に戻そうと試みた。