☆Friend&ship☆-妖精の探し人-
シルンの葬儀の後、ヘリオはどうやら船で眠ったらしい。
いや、夜を明かしたと言うべきか。
なんにしろ、あれだけ目が充血していると夜更かしを疑いたくなる。
本人は否定していたが。
「そうだ、キングは置いてく。体の調子が悪いって」
「え?いつもと同じに見えたよ?」
「昨日の料理が合わなかったらしい。凄い蕁麻疹で高熱だからであるけそうにない」
「…アレルギー、かな?」
「さぁ?」
ヘリオはぶっきらぼうにそういって、操船室へ足を向けつつ一方的に言った。
「全員揃ったしもう出すな。妖精追っかけるなら早いほうが良いだろ」
「え?どの辺にいるか分かるの?」
「大丈夫だよ、心配すんなスイム」
足を止め、ヘリオは冷たく笑った。
「エサ撒いといたからさ。スイム君はおねーちゃんの体の心配しとけよ」
不気味な程静かな声は、狂気すら感じさせる。
キースは、ほんの2、3週間前の事を思っていた。
シルンもセレンも生きていた頃。
ヘリオはあんなに楽しそうだった。
二人は、ヘリオにとっての何だったんだろうと。
遠い過去の事にすら思える二人の軌跡は、ヘリオの中にすらほとんど失われてしまっていることなど。
キースは知らないから。
忍ぶことすらできないほど、ヘリオの中の二人…特にシルンはもう、顔すらおぼろげで。
なんとか繋ぎ止めようとするヘリオの苦痛には気がつかない。
眠れば忘れてしまうから。
きっと。
もう思い出せなくなって。
きっと。
忘れたこともいつか忘れてしまう。
「…」
いつも操船はセレンの仕事だった。
セレンはきっと、この機械を操って…
「…まて、よ…」
関連付けて思い出さなければ消えてしまうほどの記憶は儚く。
それでも思うだけで辛い。
「…う、ぁぁ…もう…どう…しろって…っ」
忘れた方が楽なんだろうけど。
苦痛と一緒に幸せも忘れる位なら。
幸せの代償に苦しんでもいいと思える程にはその記憶は大切だったけど。
楽になりたいと願う位には、その苦痛は地獄だった。
「…」
ポン、と頭に置かれた手に振り向けば、クスッと笑う声がした。
「ひっでー顔」
「…うる、さい…」
ウィングは太陽のような笑顔でニヤッと笑んで、ヘリオに囁く。
「口止め料、相場聞きたい?」
「…」
返事のないヘリオにウィングは苦笑して、呟いた。
「俺よりマシだろ。船長は」
「…」
「俺は、覚えてたいとさえ思えないからさ。苦しいもん、全部忘れて捨てて。そうやって消した思い出の中に色んな罪とかあってさ」
ウィングは、ヘリオの隣に立って魔法陣に魔力を注ぎ込む。
「それを悪いことだとすら思えない。当然だって、自分を守る為だって割りきる。…いやちがうか…」
光を放ち始めたそれに笑いかけながら、ウィングは続けた。
「皆やってるって、大多数の正義ってやつ」
皆盗んでるんだからいい。
皆殺してるんだからいい。
戦争を好む国の民と同じだ。
皆善といっているのだから、それが悪な訳がない。
「ほんと、最低なやつなんだよなー俺って」
「そう」
「あは、慰めろよ。船長さーん、部下が苦しんでるんだぜ?」
「…そういうのはキースに言えよ、あいつ緩衝材みたいな心してるから」
「…かんしょ…っ…面白、あーもーマジ笑える」
ウィングは爆笑して、涙を拭った。
「いいじゃん、忘れても」
俺達が思い出させてやるからさ。
「お前さっき忘れたって言ってただろ」
「あ、そっかじゃあ訂正な。キース達がって言っとくよ」
「…ほんとお前嫌い」
「セレン好きな奴にはすかれねーよ。そりゃあさ」
フルチャージの表示を確認すると、ウィングは去り際に思い出したように言う。
「あ、そうだ船長さん。口止め料相場は1000ドルな」
「…お前大っ嫌い。死ね。セレンの代わりに死ね、消えろ、鬼悪魔妖怪冷血酷薄残酷堕天使!」
呪文みたいだと、ウィングはニヤッとして吐き捨てた。