☆Friend&ship☆-妖精の探し人-
バン、と激しい音がして、今度こそ妖精は悲鳴をあげた。
「馬鹿!恐がらせんな!」
ウィングは髪から手を離し、怒鳴り付ける。
吹っ飛んだ扉の先にあった花瓶は粉々だった。
「…っ…」
「え?お前セレン!?」
短パンに上半身は包帯だけという何処までも危うい格好だったが(大抵の女は気絶する)
それよりも危ない。
目が泳いでいる。
酷い錯乱状態なようだ。
「待てって!寝ろセレン!3日は安静って約束しただろうが!」
「…」
セレンは今にも崩れそうな足取りで此方に向かってくる。
それを追うヘリオの声が遠くでした。
ウィングは後ろ手に妖精を庇いながら、ジッとセレンを見据えた。
「…」
ガクン、と。
その場に崩れたセレンは此方にひざまずいていた。
「…ごめん」
「え?は?」
「俺の、俺のせいでこんな…」
どうやら妖精に危害が及ぶことはないらしいと、ウィングはベッドを飛び降りぐいぐいセレンの腕を引っ張った。
「おい、立てって!セレン!立てよっ!」
返事をせず、セレンはずっと頭を垂れている。
「俺を…奴隷にしてください」
呟かれた言葉に、ウィングだけではない、妖精も凍り付いた。
「奴隷にして、傷つけて、苦しめて、お願いします、絶対逆らったりしません」
「…っおいセレン!」
そこへ現れたヘリオが、羽交い締めするようにセレンを抱き止める。
無理矢理持ち上げると、そのままいなくなってしまった。
「離せ!アクアは何も悪くないのに!俺はもう!離して!」
廊下の奥から聞こえる叫び声。
やがて静かになって、静寂がこだまする。
「…アクアちゃんって言うんだな」
ウィングは微笑んで、早速知ったばかりの名前を口にした。
自分より先にセレンが知っていたのは少しイラッとしたが、まあいい。
「…」
「知れて嬉しいよ」
アクアは何も言わず、やっぱりうつむいている。
「アクアちゃん」
「奴隷って、私はどうすればいいんでしょうか?」
セレンのことらしい。
ウィングはまたイラッとしたが、まああれだけ派手に登場すればまあ印象には残るだろう。
イケメンだし。
「気にすんなよ、あーゆー奴なの」
「露出狂?」
一瞬そうだと言いたくなったが、セレンにも多分あるであろうプライドをへし折る訳にはいかないので否定しておいた。
「そっちじゃねーって。いっつも制服姿。長袖長ズボンにブーツだよ」
「学生さんなんですか?」
ウィングはなんであいつにばっかり興味を持つんだと責めたくなった。
「さあ、わかんね。たぶん違うと思うぜ。仕事してるみたいだし」
「…そうなんですか。じゃあ一体どこの制服なんでしょう」
「…さあ」
「というか、なんで制服って分かったんですか?」
「ああ、紋章みたいなのがブーツの留め金とボタンについてたんだよ。胸にもほどいたような跡があったし」
まるで切り取られたような跡だったけど。
そんなふうにいってやると、アクアはコクンと頷いた。
「…ウィングさん」
「ん?」
「私、どうすればいいですか?」
不安げに此方を見上げる潤んだ瞳が切なくて、ウィングは心のなかでムッとした。
なんだよあいつ。
好きなだけアクアの中ぐちゃぐちゃにしといて、なんでアクアの中心にいるんだよ。
それが嫉妬だと気がつくのは、もう少し後の話。