嘘から始まる恋だった
「……麗奈、無理するなよ。お前は我慢する癖があるからな」
「我慢なんてして‥『前科持ちの癖に口答えする口はこうしてやる』」
いい訳しようとして横を向く唇を塞がれる。
触れるだけのキスだから、いい訳しようと思えばできるのに優しく見つめられる眼差しに“まっ、いっか”って思ってされるままにキスを受けていた。
その間にお腹にあった手が指を絡め手を繋いでくる。
「さて、今日は忙しくなるからそろそろ出かけるよ」
「ちょっと待ってよ。私、まだお化粧してないよ」
グッと握られた手を引き、部屋から出ようとするからスッピンではと抵抗してみるのに…
「…これから行くところでしてもらえばいいから出かけるよ」
お化粧してもらえるところってどこ?
出かけるってどこにいくの?
疑問が顔に出ていたのだろう。
「麗奈はそのまま何も言わずについてきて」
「……」
スッピンの女を連れてどこに行くと言うのだ。
喉まで出かかった文句も、高貴の楽しげな表情に何も言えないまま出かけることになった。
「お願いします。それじゃ、後でね」
高貴は向かった先のお店の店員に挨拶もそこそこにしてどこか行ってしまい、置いてきぼりにされた私が待ち受けていたのは、ネイルと簡単なフェイスエステ。
そして、訳のわからないままヘアメイク。
気がつけば、鏡越しに見える真っ白なドレスに鼓動がドキドキと早くなる。
ヘアメイクの終わった私にドレスを着せてくれた店員が鏡越しに微笑んでいる。
「素敵…お似合いですよ。奥様のお洋服の好みをお聞きして数着こちらで選ばさせていただきましたが、旦那様が奥様の為にこちらのドレスを選ばれたんです」
奥様って言葉がくすぐったい。
ドレスは、カップを可愛いらしい小花の刺繍で華やかにしたAラインのウエディングドレス。
髪に飾られた小さな生花達がドレスとマッチして私好み。
感極まり、ウルウルとしたところにトドメを刺しにきた男が鏡越しに微笑んでいた。
「…綺麗だよ」
せっかく綺麗にメイクしてもらったのも忘れて、号泣する私。
「……バカ……嬉しすぎて…涙が、止まらないじゃない」
「サプライズしたかったんだ……ごめん」
メイク道具のティッシュを数枚とり、目尻を押さえてくれる高貴。
サプライズを仕掛けたくせに泣き止まない私に動揺し困った顔をした男が可愛くて、驚かせてくれたんだから少し困らせてもいいよね…なんて思ってたなんて言えないけど、知らないところで計画し準備してくれた高貴に感謝を込めて
「……ありがとう」
人目があるから唇は避けて、頬にキスをした。