嘘から始まる恋だった
残念…
えっ、残念ってなにを⁈
何を期待していたの⁈
ない…
絶対にないんだから…
心でつぶやき赤らむ頬を押さえ落ち着こうとする一方で…チクンと先程より胸が痛んだ気がした。
いったい、どうしたんだろう⁈
「おい…麗奈。ボーとしてないでこっちこいよ」
「…あっ、はい。今、行きます」
冷蔵庫から冷やしておいたビールを2缶持ってリビングに向かった。
2人で食べる鍋はとても美味しくて、部長が会話を盛り上げてくれるから楽しくあっという間に時間が過ぎていく。
「ごちそう様でした」
「…こちらこそ、ごちそう様でした」
お酒のせいもありふふふと2人笑い合う。
ふと、時計を見れば10時を過ぎていて2時間以上鍋を囲んで会話を楽しんでいたのかと思っていた。
それは、部長も同じだったようで…
「もう、こんな時間か…楽しくてあっという間に時間が経ってしまったな」
「私も今、そう思ってたんです。そう言ってもらえると嬉しいです」
お酒のせいで大胆に思っていたことを口にだしていた。
それがいけなかったのか⁈
「………おれ、もう帰るわ」
急によそよそしくなってしまった部長。
だけど…彼氏でもない人を引き止める理由が見つからないから
「……そうですね。明日も仕事ですし…後片付けは私がしますので、気をつけて帰ってください」
「麗奈はクールなんだ⁈普通、この状況で引き止めないのか?今まで帰ってくださいなんて言われたことないんだけど…」
玄関に向かって歩きながら顎に手を添えて独り言ちる部長。
その様子が可笑しくて頬が緩み笑い声を耐えて後を追った。
「……それじゃ、帰るから戸締りしっかりして、誰か来てもむやみに開けるんじゃないぞ」
過保護過ぎる部長に
「はい…わかってます」
「敬語禁止って言ってるのに…いちいち注意しないとなおらないのか?」
あっ…そうだった。
つい…
「気をつけるよ。高貴」
これでどうだと言ってみると頬が赤らんでくる部長。
自分で言わせておいてそれって…
こっちも恥ずかしくなってくるじゃない。
しばらくの沈黙
「じゃあ、行くわ」
もう…開き直るしかない。
「気をつけてね」
「…おっ、おやすみ」
「高貴…おやすみ」
開き直ってしまえば、女って生き物は強いみたいで次々と敬語が抜けて普通に接することができる。
手を振り見送る私に部長は驚きを隠せないまま帰って行った。