嘘から始まる恋だった
彼女に手を挙げた男が許せなくて、男を一瞥したまま
『社内で何をしているんです?』
上司という立場を利用し、男に圧力をかけていた。
だが、男は笑みを作り
『池上部長…屋上でご休憩ですか?』
白々しく言ってくる。
彼女は、今にも泣き出しそうな目で助けを求め男に腕を掴まれていた。
そして、俺の前を彼女を連れて去ろうとする男の手を振り払い、俺の背にしがみついて助けを求めてきた彼女。
そんな彼女を見捨てるはずもなく、男の父親である専務の名を出すと、知られたくないのか苦々しく舌打ちしてフロアへと出て行た。
その瞬間、彼女が崩れるようにしゃがんでしまう。
彼女に手を差し伸べると震えているせいか、なかなか立ち上がれないその手をぎゅっと握った。
こんなにおびえるほど奴との間に何があったのだ。
気になり聞こうとしても、大丈夫と言い張る彼女は昇降口へと出て行こうとする。
か細い彼女の肩に手を伸ばそうとするもグッとこらえ上司らしく振る舞った。
『……困っているなら、遠慮なく相談においで…』
俺が今言える精一杯の言葉だった。
彼女がいなくなった踊り場から上へと階段を上り屋上へと出た俺は、タバコを吸いながら彼女らの会話を思いだしていた。
血が繋がっていない義兄と義妹
そして、苗字が違う理由
あの男の見たことのない一面
嫌がっていた彼女に対する執着心
そして…あんなことと言っていたが、あんなこととはなんだったんだ?
湧き上がる保護欲
俺が、彼女を守る…
そう思うと次々としたたかな思いが溢れてきた。
よし…一か八かのかけに出てみよう。
俺は、ことの経緯を確認する為に今日中にもう一度、彼女に近づくことにした。
そして…彼女の帰る時間を待ち伏せていれば、タイミングよくあの男が彼女を待ち伏せている。
フッ…利用させてもらうか。
動揺する彼女が自ら俺に助けを求めてくるように声をかける。
『麗奈…お待たせ』
驚きを隠せない彼女。
だが、今、彼女を救えるのは同僚でもないこの俺だと判断し自ら腕を絡めてきた。
苦々しく顔を歪める男。
この男も、ただ彼女が好きなだけ…
彼女と義兄妹だというだけで、歪んだ愛情に変わっただけだろうが、彼女にとって…その愛は狂気でしかないのかもしれない。
だが、この男の前と大勢の前で、彼女との仲を濁したことで俺の手中に入ってきたも同然だった。