嘘から始まる恋だった
彼女の心を柔軟させるべく、馴染みの居酒屋へ。
陽気なオヤジのおかげもあり、口数が増えていく彼女を少しずつ誘導して経緯を聞き出した。
男の執着が彼女を苦しめている。2人の間に何があったかは辛そうに泣く彼女からは聞き出せなかったが、想像はつく。
諦めていた女が、目の前で苦しんでいるのをこのまま放っておけない。
それに、己から彼女に手を差し伸べた以上諦められる訳がない。
彼女が専務の義娘なら祖父からの縁談も断れると判断し、彼女を手に入れることにした。
社長の座も欲しいが、彼女を知ってしまった…好きな女を手放すぐらいなら社長の座なんていらない。
そう思うほど、彼女は俺の心にすっぽりと入ってきた。
そして…かけに出た俺
お互い恋人同士のふりをすることを提案する。
『そうすれば、君の義兄さんから君を守ってあげれるし、専務にも俺が君の彼氏だと紹介すれば納得するだろう。君は俺のお見合い話を破談にできるし、お互いメリットしかない』
彼女が断れないように条件をつけて…
『俺と君のどちらかが決着がつき次第、徐々に距離を置いて別れたことにすればいい。君に好きな人ができるまででも構わないよ』
このまま君を、俺に惚れさせればいいだけのことだ。別れるなんてできないように外堀から埋めてやる。
そんなしたたかな俺の心の内を知らず、彼女は恋人同士のふりをすることを承諾した。
翌日
作戦通り外堀から埋めていくことにした俺。
昨日、関係を濁した現場を見ていた社員、そして今朝の2人の会話と社員食堂での現場を見せ、会社中に俺たちの仲を広め誰もが知ることになる。
彼女はそれを義兄から彼女を守る為と俺の縁談を阻止する為の行動だと思っているが、俺の本当の目的を彼女は知らない。
その日の夕方
仕事を早く終わらせ彼女と帰ろうとしていた俺に、嫌がらせなのかと思う行動が起こる。
部下のミス
常盤(彼女の義兄)が入力画面の金額を全て消去してしまったと課長が慌てて言ってきた。
明日、朝一に受注業者に出さなければいけない書類作成だったはずなのに…
チッ…
早速、やりやがった。
自分の評判を落としてまで邪魔するつもりらしい男。
それならと…
俺は、万が一の為にパソコンに入力しておいたファイルを開き各受注業者ごとに振り分けてあるデータをUSBにおとして課長に手渡した。
ホッと胸を撫で下ろした課長には可哀想だが、常盤と2人で遅くまで残業になるだろう。