嘘から始まる恋だった
執着だけで彼女を苦しめるだけしかできない男が、俺の上を行こうするなんて甘い。
ほんの少しの遅れですむはずと急ぎ会社を出ようとすると電話が鳴る。
会長からの呼び出しだ。
思っていたより早く噂が流れたようだ。
会長室のドアを叩き、返事を待たずに中に入る俺。
「失礼します」
「あぁ、高貴か…」
ソファにどかっと座っている祖父と社長がいた。
「高貴君、とりあえず座りなさい」
社長に座るように促されるが用件だけ済ませて、1秒でも早く俺を待つ彼女の元へ行きたい。
「いえ…結構です。で、ご用件は?」
「変な噂が聞こえてきてね…確かめようと思って呼び出したんだよ」
変な噂⁈
麗奈のことだろうに…嫌な言い方をする。
「どんなことでしょうか?」
「君が、受付ごとき女性社員にうつつを抜かしているって話を聞いたんだが⁈」
このジジイ…
自分の祖父ながら社員をなんだと思っているんだ。
「その話は本当です。受付ごときと言いますが、専務のお嬢さんですよ」
「常盤専務のお嬢さんだと?例の子は確か花崎と言わなかったかなぁ?」
わざとらしく社長に確認をとる会長に…
「えぇ、苗字は違いますが確かにお嬢さんです。専務にご確認してみたらどうですか?」
「常盤君のお嬢さんか…いつからの付き合いだね?」
「一昨日からです。会長から縁談の話を頂き悩んだのですが、彼女を諦められなかったんです。ですから縁談の話はなかった事にして頂けますよね」
「高貴君…縁談のお相手は国土交通相大臣のお嬢さんだぞ」
「会社の為なら僕じゃなくても次がいるじゃないですか?」
「な、何を言っているんだ。君が次期社長になった時の為に会長が選んでくださった縁談なんだぞ」
「それは感謝しています。ですが、社長の椅子より僕は彼女が大事なんです」
「こんないい話を断るなんて…どうかしている」
社長が頭を抱えだす。
「いいじゃないか…常盤専務のお嬢さんなら付き合いを認めてあげようじゃないか…」
会長の口から好意的な言葉が出る。
専務の娘なら認めるだろうと予想していたが、ここまで好意的だと素直に喜べないのはなぜだろう?
だが、認めてくれるなら都合がいい。
「ありがとうございます。明日にでも、専務に報告させて頂きます」
「好きにするといい…」
会長は手の甲を何度かふり出て行けと合図する。
「失礼します」
俺は、浮かれて彼女の元に急いだ。