嘘から始まる恋だった
一緒に手を繋いで歩く幸せ
この手を離すものかと、買い出し中もずっと手を繋いで店内を回る。
俺を1人の男として意識させ、これから向かう彼女のアパートでいろいろ目論んでいるなんて知らずにいる彼女。
まだ、彼女の中では俺は上司でしかなく、俺が麗奈と名前を呼んでも彼女は俺を部長と呼ぶ。
何度、注意しても直らない呼び名と敬語
。終いには、身振り手振りで会話をしだす始末。
気に入らない…
アパートまでの道のりも薄暗く、人通りのない道。その上、一階の彼女の隣の部屋は空き部屋だ。
意外な行動をとるくせにどこか抜けていて、簡単に男を部屋にあげる彼女の危機感の無さ…
無性に腹立たしい。
いくら共同戦線をしいた同士だとしても俺も男だ。
1人の男として意識してもらわなければ、先に進めない。
優しく注意し、怒り、そして…男だと意識させるべく触れそうで触れない距離を保ったり、不意に触れて意識させてみせれば、その度にかすかに反応をみせる彼女。
頬を染めたり、動揺して挙動不審な行動をしだす。
俺の目論見通り意識しだしてきたと思っていたら、急につれない態度になる。
そうかと思うと戸締まりをちゃんとするように注意しているのに、なぜか笑いをこらえて返事をする。
本当にわかっているのか?
最後まで結局、敬語が抜けきらなかった事も注意すれば…
『気をつけるよ。高貴』
意表を突かれ思わず頬が熱くなる俺。
望んでいた言葉なのに急に言われ照れ臭さを隠すように言葉をかける。
『じゃあ、行くわ』
『気をつけてね』
『…おっ、おやすみ』
『高貴…おやすみ』
開き直ったのか⁈
手を振り見送る姿に驚きを隠せない俺は、最後の最後で彼女の言動に振りまわされ、無意識の名前呼びにキュンときていた。
そのまま帰るつもりだったが、ふと不安になり呼び鈴を鳴らせば、誰かも確認せず鍵を開ける音。
つい今しがた注意するように言い聞かせたばかりなのに…呆れて説教をしだす俺に反抗してきたと思ったら素直に謝ってくる麗奈が愛しくて…思わず抱きしめていた。
『……頼むからもう少し危機感持ってくれよ』
可愛く反省する彼女にキスしたくなる衝動を抑え、代わりに彼女のおでこを小突いて…再び、むやみにドアを開けないように注意する。
返事だけはいい彼女に苦笑いし帰った俺だが、彼女の危機感の少ない危うさが心配でならない。
そこで、あることを思いついた。
きっと、驚くだろうなぁ…と想像し笑みを浮かべた。