嘘から始まる恋だった

ころころ表情が変わる優香。

義兄の思惑がなんなのかわからないからうかつに何も言えない。

「……」

「あっ、常盤さんで思い出したけど、専務に挨拶ってどういうことよ」

「うん…ちょっと複雑なんだけど…実は専務って母の再婚相手なんだ。だから、常盤さんとは義兄妹ってことになるの」

「えっ…えー」

「しーっ…声が大きいよ」

「ごめん…じゃあ、何、常盤さんとはどうなってるの?」

「どうもないわよ…専務は私がお嫁に行くまで一緒に住みたがっていたのに、高貴と付き合うことになって勝手に家を出たの。それが気にいらない常盤さんがいろいろ言ってきてたの。高貴にも言ってなかった事で、義父だって教えたからそのまま知らない顔して付き合えないって思って挨拶するつもりなのかも…」

「なんだ…そういうこと。よかった…実は私、常盤さんのこといいなぁって思ってたのよね」

うまくごまかせたとホッとしたのも束の間、優香の口から驚く言葉が出た。

「それなら、アタックしちゃおうかな」

ウキウキしだす優香に、今更本当のことを言えない。

義兄が、優香に好意を抱いて誘ったのだと思いたい。

「……」

私は、ただ優香が傷つかなければいいと願うだけだった。

「ところで、いつの間に呼び捨てになったの?昨日、何かあったでしょう?」

昨夜の出来事が走馬灯のように脳裏をよぎる。

「……な、何もないわよ。ただ、私のことを呼び捨てにしてるんだから自分も名前で呼んでほしいってお願いされたから…」

「ふーん…そういうことにしておいてあげるわよ」

真っ赤になっている私の言い訳なんて通用しないらしい。

でも、実際に何もなかった…

ただ、勘違いしそうになるほど高貴は…

優しくて

恋人のように心配してくれて

思わせぶりな甘い言葉を残していっただけだけど…

私達は、所詮、嫌悪するモノから逃れる為に偽物の恋人同士なっただけなのだ。

そう考えるだけで胸が苦しくなるのはどうしてなのだろう?


ーーーーーー


お昼近くなった頃、高貴が迎えにきた。

「麗奈がしばらく抜ける許可はもらっておいたからそのまま専務室へ行くよ」

強引に手を繋いできて、エレベーターに乗り込む私達を、優香は微笑ましいカップルを見るように見送っていた。

でも、実際は…

「いいな…麗奈。俺が話をするがいちいち驚いてしくじるなよ」

いったい何を言うつもりなのだろう?
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