嘘から始まる恋だった
カップルを装う為に打ち合わせをしているだけだった。
専務室の前
高貴が繋いでいる手をぎゅっと握って
「俺に任せておけ…」
安心させるように優しく微笑んだ。
首を縦に振り頷く私。
ドアをノックすると秘書がドアを開けて入るように奥へと手を差し出す。
「失礼します」
高貴に続いて部屋の中に入っていくと、大きなデスクの前でまだ仕事中だった義父がこちらを見て微笑む。
「やぁ…池上君と麗奈ちゃん…わざわざ来てくれるなんて嬉しいね」
座ってとソファに手の平を向け、義父は立ち上がって1人掛け用のソファに腰を下ろした。
高貴は、一度義父にお辞儀をしてから私に視線を送り、一緒に3人掛け用のソファに並んで座る。
「本日、こちらに伺ったのは彼女のお義父さんである専務に交際していることを直にご報告させていただきたくて伺いました。専務の耳に噂が届く前にご報告させて頂くつもりでしたが、ご報告が遅れて申し訳ありません」
「……うん。そうだね。池上君の彼女がうちの麗奈ちゃんだと聞いた時は正直驚いたよ。君には、会長からの縁談が出ていたはずだからね…麗奈ちゃんが遊ばれているんじゃないかと心配していたんだよ」
義父が私に視線を向ける。
「ご心配おかけしてすみません。彼女とは真剣な付き合いです。会長にも昨夜、報告して縁談も断りました」
一瞬だけ目を細める義父。
「……そうか…君はそれでいいのかね?」
「えぇ、僕には彼女がいればこの会社の社長になれなくてかまいません」
「そこまで言ってくれるなんて、麗奈ちゃん、君は幸せ者だよ」
「……はい」
高貴の演技を信じ、本当に喜んでくれる義父に申し訳なくなる。
「それで、専務…いえ、お義父さん」
高貴にお義父さんと呼ばれ、悪い気がしないのか頬が緩む義父。
「なんだね?」
「お義兄さんと住んでいることで僕が誤解して付き合えないと思った彼女は、僕の為に1人暮らしをしてくれたのですが、住んでいる場所がセキュリティのないアパート暮らしです」
「それは心配だ…君達の交際は反対しないから麗奈ちゃん戻っておいで…」
高貴はいったい何を言ってくれるの⁈
そんなこと言えば義父が心配してそう言うって予想できる事じゃない。
義兄がいる場所になんて戻りたくない…
「お義兄さんといっても彼女とは血が繋がっていませんよね。彼氏として彼女が他の男性と一緒に住んでいるのは面白い話じゃありません」