嘘から始まる恋だった
義父をじっと見つめる真剣な顔。
「わかっているならいい…これからどんなことがあっても麗奈ちゃんを守ってほしい。それだけ約束してくれるね」
「約束します。彼女を守ってみせます。それでしばらくだけでいいんですが、同棲することはお義父さんだけでとどめておいてもらえませんか?」
「……わかったよ。君に何か考えがあるんだね」
「はい。ありがとうございます」
義父と手を取り合い握手する2人に、これが演技なのか本当のことなのかわからなくなるほど高貴の演技は完璧だった。
専務室を出てホッとした私。
そのまま、階段を降りてひとつ下の階にある誰もいない休憩スペースに。
自販機でホットのミルクティーを買ってくれた高貴。
「ありがとう…これでお義父さんも安心してくれるよね」
「そうだなぁ…今日の夜、一度、俺のマンションに行ってからお前のアパートに行った方がいいな…」
アイスのブラックのプルタブを開けて一口飲んだ高貴が、私の真横に座る。
「どうして、高貴のマンションに寄るの?」
「車をとりに行くからに決まってるだろう?」
「車?」
「あぁ、荷物も少ないだろうし、一度で済むだろう」
「何が?」
「引っ越しだよ」
「あぁ、引っ越しね……」
んっ?
「高貴、引っ越しするの?」
「あぁ、そうだよ」
「まさか…私のアパートに引っ越ししてくるつもりなの?」
「………お前、馬鹿だろう」
会話が進まないことにイラついていた男が呆れて小馬鹿にする。
「はっ、馬鹿じゃないし…」
「いや、馬鹿だね。さっきの専務との話の流れからしてお前が、俺のとこに引っ越ししてくるってことだろうが⁈」
ゆっくりとした口調で横にいる男の顔を覗いて恐る恐る聞いてみる。
「……それって、高貴のマンションに引っ越しするってことだよね」
「あぁ、そうだよ」
嫌な予感しかしない。
「確認するけど…高貴の部屋ってことじゃないよね」
「当たり前だ……」
ホッと胸を撫で下ろそうとしたら…
「俺と一緒に住むんだよ」
「えっえぇー、無理。どうしてそうなるの?お義父さんを安心させる為に結婚を前提にって話も行き過ぎだと思うのに…安心させる為とはいえ一緒に住むなんてやり過ぎだよ」
「専務と約束した以上は、一緒に住んでもらう。万が一、あのアパートでお前に何かあってみろ…俺は必ず後悔する…」
ドキンと胸が高鳴る。