嘘から始まる恋だった
「いいえ…私も今、出てきたところです」
社内一人気の男が受付の女子と腕を組んでいる姿を、優香はビックニュースだと言わんばかりに驚き、目を見開いて見ているだけだった。
義兄はこの状況に不満顔で、ギュッと握り拳を作り池上部長に2人の関係を問いただそう目の前に立ちふがる。
「池上部長…彼女とどんな関係なんですか?」
義妹だとは言わない義兄。
「それを君に答える義務があるのかな?」
「いいえ…ですが…」
言葉に詰まる義兄に追い打ちをかける部長…
「彼女と待ち合わせをしていたのは僕で、待ち伏せしていたのは君だよね」
そう言われれば、一社員として大勢が行き交う場でどうする事もできない。
「今日は、帰ります。だけど、麗奈…俺は諦めないからな」
捨てゼリフを吐いて、義兄は駅に向かって歩いて行った。
執拗な執念にゾッとして、無意識に彼の腕にすがるように抱きつく私。
そんな姿に、勘違いした優香は気を利かしてそそくさと退散していく。
「麗奈、また明日ね」
ウフフと笑みを浮かべ去っていく彼女。
明日、この状況を問い詰められるのを覚悟するしかないようだ。
義兄も同僚もいなくなり、部長の腕から手を離そうとする手の上に男の手のひらが包むように被さる。
「このまま、どこか行こうか?」
どこかって?
優しく微笑む笑顔に、勘違いしそうになっていた。
「えっと…」
「うん…なに?花崎 麗奈さん」
「…手を…離してください。部長にご迷惑おかけできません。それに、こんなところ誰かに見られたら変な噂がたってしまいますよ」
「あぁ、これ…俺は気にしないし、噂がたってくれる方がいろいろと助かるんだけど…君には悪いけど、しばらくこのまま一緒に歩かないか?例の彼がどこかで見ているかもしれないしね」
そう言われると義兄ならあり得るかもしれない。
だが、いいのだろうか?
入社一年程の受付の私なんかが、社内一人気者、そして、次の社長候補で大和一族の男の腕につかまりこうして歩いているなんて、想像すらできなかったのに……
今、腕を組んで歩いている。
「君は、専務の推薦で入社したんだよね⁈」
「はい…恥ずかしいんですが縁故入社です」
「俺も同じだから一緒だよ。それで、彼との関係を聞きたいんだけど…そうだ、食事をしながら話をしようか?君の困っている現状を救えるかもしれない」