嘘から始まる恋だった
頭上で『かわいい奴』と笑う男。
男の思惑通りに行動してしまったのだと思ってムッとしてしまう。
だけど…
抱きしめてくれる温もりが優しくてどうでもよくなっていく。
どうしてこんなに惹かれてしまったのだろう⁈
好きだから
嫌われたくないのに…
好きだと認めた時
嫌われてしまうだろう…
こんな私を好きでいてくれるはずがない
高貴が好きだと言ってくれるほど…
忘れようとしていた記憶がよみがえり…
貴方に嫌われたくない
と、心が叫ぶ。
ただ、好きだと言うだけなら今すぐにでも言えるのに…
好きの先にある恋人同士の甘やかな時間は、私を苦しめる。
どうすればいい?
真実を知っても貴方は私を好きでいてくれる?
そんな保証がないなんて言えないでしょう…
それなら、今のままでいたいと男の背をぎゅっと抱きしめ返し、高貴は何も言わず、私を抱きしめていてくれる。
陽が陰りだし冷たい風が吹き薄暗くなった外
だけど…抱き合う私達はしばらくそのままでいた。
冷えた車
冷えた体が暖まるまで…
車に乗り込んでエンジンをかけた瞬間、見つめ合いどちらかともなく始まったキスは、角度を変えて貪りあう生々しいキスへと変わり、甘い吐息が漏れる。
男の手が頬に手を添え、逃がさないと言うようにどこまでも追いかけてきて…濃いめのスモークが張ってあるのをいいことに車中、誰の目も気にならないからとキスに夢中になる2人。
そんな甘やかな時間を終わらせたのは…
「…これ以上したら、キスだけで終われない」
高貴の艶めいた声だった。
名残惜しそうに頬を撫で、濡れている唇を指で拭っていく。
「フッ…そんな顏は好きだって認めてからにしろ…」
そう言って何もなかったようにハンドルを握り車を走らせていた。
私は、ずっと頬を押さえ高貴の言葉を頭の中でリピートさせていて…
そんな顏とはどんな顏だったのだろうとサイドミラーで盗み見て見ると、そこに映る私は、薄暗い鏡の中で潤んだ瞳と今まで見たことのない女の顏をしているように見えて、恥ずかしくてすぐに目をそらした。
あの時の私は、高貴とのキスにもっと先を望んでいたのだろうか⁈
うつむく私の頭を撫でる手
「ゆっくりでいい…お前の中にある何かを一緒に解決させてくれ…」
心を見透かした言葉に涙が溢れる。
「……高貴…ごめん、ごめんね」
そこには、前を見据えポンポンと頭を撫でる優しい手と苦笑している顔の男がいた。