嘘から始まる恋だった
1人きりでとる朝食の味気なさに、どれだけ高貴と迎える朝に慣れてしまっていたのかと…ため息が自然と出ていた。
仕事に向かう為に準備をし、部屋を出る時も側にいるのが当たり前になっていた男の姿をふとさがしている私がいて…
そんな自分に苦笑している。
下まで降りて行くとコンシェルジュが出てきて…
「花崎様、おはようございます」
「おはようございます」
「池上様からの申しつけでタクシーを呼んであります」
私がタクシーを使わないとわかっていたのか…先手を打たれていたようだ。
「…ありがとうございます」
「帰りも同じタクシーがお迎えにあがります。そちらで必ずお帰り下さい」
そこまで…手配済みとは。
コンシェルジュの笑顔に断ることができない。
「あっ、はい。わかりました…手配してくださってありがとうございます」
「いいえ…花崎様の身の安全の為にできることをしているだけです。池上様がお留守の間は、どなたもお部屋に通さないようにと申し使っていますので…何かご用がありましたら必ず、私にお申し付け下さい」
どこまで過保護なのかと可笑しくなるが、親戚に言ってくれるこの人も高貴に頼まれた仕事なのだと思うと笑うわけにはいかなかった。
「はい…ありがとうございます。では、行ってきます」
マンション前に止まっているタクシーに乗り、車で10分もかからない距離を乗せてもらう。
重役でもない受付ごとき私が、会社前で降りる訳にいかないので近くで降ろしてもらい、運転手さんを呼び出す電話番号を渡されてタクシーが去って行くのを見送った。
フッ〜
過保護過ぎる高貴にも困ったものだ。
安心させる為についた嘘なのに…
帰りもタクシーに乗らないといけないのかと憂鬱になってしまう。
背後から駆け寄る足音
「麗奈…おはよう。タクシーなんて珍しいじゃない?」
「おはよう…優香。これにはいろいろと理由があるの」
「……気になるな⁈…それより、愛しの彼氏は一緒じゃないのね」
横になって並び会社に向かって歩き出す2人。
「……高貴は、急な出張で明日までいないんだ」
「それはそれは…寂しいわね。最近、付き合い悪いんだから…今日は私と遊びましょう」
遊びたいかも……
でも、高貴との約束がある。
「……うーん」
「気の無い返事ね」
「実は……まっすぐ家に帰るって約束してて、帰りもタクシーが迎えに来るの」