嘘から始まる恋だった
隣りに座っている優香が手を握ってきて、自然と涙が溢れていた。
「謝っても許されないことをしたと思っている。だからこそ、俺の手でお前を幸せにしたい…」
「そんなの偽善よ」
表情が険しく歪む義兄。
「……池上部長とお前の仲を疑い、優香を利用してあの手この手で仲を割こうとした…だけど、あの人に邪魔されて敵わなかった…」
私の手を握っている優香の手に力が入った。
「……私は、ずっと苦しくて、あなたのせいで男の人に触られると嫌悪感しか湧かなくて、好きな人と触れ合うこともできなくてあなたを憎んだわ。恋なんてもう…できないと思ってた。でも、彼なら…わかってくれる。あなたの呪縛から解放してくれる。だから、もう…終わりにしましょう。私のように優香を傷つけないで…」
「……すまない。麗奈…優香」
2人の顔を交互に見つめてくる義兄の瞳が揺らいでいた。
「どんなに謝ってもあなたが私にしたことは一生許せない。だから、償って…義兄さんの側にいる人を幸せにしてあげて……それがあなたが私にする償いよ」
「……」
声を殺し涙を流す優香の手を握り返し、これでいい?と見つめる。
コクンと頷く優香。
「麗奈…池上部長のせいで強くなったんだな。俺の麗奈は、気弱でそんなトドメを刺す言葉なんて言わない」
男の最後のプライドなのか、捨てゼリフを吐く義兄。
「……そうね。彼にたくさんの愛をもらって強くなったわ。だから、もう…義兄さんなんて怖くない」
負けじと強気に出ると背後から私の肩にそっと手を乗せる人の手があった。
「常盤…お前がどんなに足掻いても麗奈は渡せない。いい加減、目の前の現実を受け入れて、そして…ちゃんと仕事をして俺を見返してみろ。お前を高く評価している人間をこれ以上がっかりさせるな」
それは、愛しくて会いたかった人の声だった。
「……部長」
「野村さん、契約違反で君には言いたい事があるが…今日の事は麗奈に免じて許そう。だだし、その男をちゃんと手なづけるのが君との新たな契約だ」
わかったなと鋭く上から睨みつける高貴に、優香もおびえながら頷いていた。
「麗奈、帰るぞ」
怒っているような低い声でグイッと腕を掴まれカフェを出ると目の前にタクシーが一台止まっていた。
それは、私が乗るはずだったタクシーで…どうしてと高貴を見つめる。
「……俺が、何も手を打たずにお前を1人にさせる訳がないだろう」
私を見つめ不敵に笑う男にあ然として言葉が詰まる。