嘘から始まる恋だった
「はい…」
産婦人科を出てお腹に手を当て頬が緩んでいく。
『高貴、喜んでくれるよね』
マンション近くまで行くと、黒塗りの高級車が止まっていた。
横を通り過ぎようとすると…ウィンドウが下りて中から年配の男性が顔を出し私の名を呼んだ。
「花崎さんだね」
「はい…そうです」
男性は、大和建設の会長だった。
「君に話がある…乗りたまえ」
「……」
警戒する私に向かって
「ご家族の為に話を聞いた方が君の為だよ」
優しい口調なのに、脅し文句で威圧する会長。
高貴に連絡することもできず、言われるまま車に乗った。
「適当に走らせてくれ…」
「かしこまりました」
運転手との短いやり取りの後、こちらを見て品定めする会長。
「……君は、専務のお嬢さんだったね。まぁ、受付に立つレベルの顔だちだろうが、高貴がのめり込むほど君の何に魅力があるのかな?」
失礼な口ぶりに怒りでワナワナと手が震えていた。
「君も知っているだろうが、高貴には決まった相手がいる。あいつは政略結婚だと言うが向こうはとても美人で家柄も申し分ない。それに高貴を気に入り結婚に乗り気だ。高貴さえ『うん』と頷けば会社の為にもなるし、高貴には社長の椅子が約束される。それなのに…社長の椅子よりも君を取ると言うから祖父としては奴の将来が心配でならないんだよ。わかるかね?」
わかりたくもない。
だけど…本当に祖父として心配しているのなら…
「まぁ、一般人の君に会社を背負う大変さがわからないんだろうね。私の孫の中で会社を任せれるのは高貴しかいないんだ…そこで、しばらく高貴には好きなようにさせておいたが、君も楽しんだだろう⁈そろそろ高貴の前から消えてくれないか?」
会長の口から思いもしない言葉を聞き、言葉を失った。
「君がいると高貴の将来に邪魔なんだよ。ただでとは言わん…君が身を引いてくれるなら専務を首にはしないよ」
「……どうして…義父が出てくるんですか?」
「数々の常盤君、君のお義兄さんが起こした問題を知っているかね⁈身内だからと彼はそれを上に報告せずに自分で処理したんだ。そんな部下を置いておけると思うかね」
義兄が義父に迷惑をかけていると高貴が言っていた事が思い出された。
「そんな…」
「君が姿を消すだけで家族が助かる。そして、高貴も将来が約束される。大好きな人達の為に君は頷くだけでいいんだ…
しばらくの生活費はあげよう」