嘘から始まる恋だった
私が困っているのを見て隣でニヤッと楽しげに笑う男。
意地悪なんだから…
でも…こんなやり取りも後数日
愛する人と別れて私は、生きていけるのだろうか?
不安と生まれてくる命を1人で育てなければならないという思いに苛まれれていた。
そう思うと、無意識にお腹を撫でていた。
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昨日までなかった悪阻が始まったのか…
ロビーにいると今まで気にならなかったいろいろな匂いに敏感に反応して気持ち悪くなってしまう。
香水の香りなんて最悪で…
優香から香る化粧品の匂いと混ざり、今にも吐きそうになっていた。
「……麗奈、大丈夫?顔色悪いよ」
「…………ごめん。もう、無理」
受付カウンターから出てトイレに駆け込む。
便座の前でしゃがみこみ、胃液を吐きだして、胸の奥からこみ上げる気持ち悪さに力を振り絞って声ごと吐き出していた。
「麗奈⁈……大丈夫なの?」
背後から声をかけてくるのは優香。
「………う…ん。ありがとう…大丈夫」
振り向いて…口と鼻をハンカチで押さえる私を見て…驚く優香。
「…妊娠してるの?」
「……優香に隠しても仕方ないよね⁈…だけど、高貴には言わない。だから…優香、絶対に内緒にしてておいてほしい…」
「どうして…ちゃんとした理由を教えて…」
「……」
「麗奈…」
私の肩を掴み、厳しい目付きで名前を呼ばれる。
「……」
「麗奈…私達、友達でしょう。力になるから教えて…」
「……迷惑かけれないよ」
「何言ってるの…とりあえず更衣室で休みましょう」
「そういえばカウンターは?」
優香がここにいるってことは、カウンターには誰もいないんじゃないの⁈
「大丈夫よ。麗奈の体調が悪いから付き添うって事で先輩に変わってもらってきたわ」
メインロビーとは別に最上階の重役ロビーにもカウンターがあり、そこにいる先輩に来てもらったのだろう…
「……ありがとう」
「私達、親戚になるかもしれないんだから、遠慮しないの」
「えっ…そんな話が出てるの?」
「残念ながらまだだけど…そのうち、ね」
自信満々な表情をする優香には、何か確かな確証があるのようだ。
「とりあえず、行きましょう」
「うん…」
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誰もいない更衣室で、テーブルを挟んで優香と椅子に腰掛けると『はいっ』と手渡されるペットボトル。
優香が冷たいお水を買って来てくれて口の中を潤すと、吐き気と口の中の気持ち悪さが和らいだ。