嘘から始まる恋だった

「……」

わかっていたことだけど、残酷な言葉に体が震える。

「……お願いします。退社の手続きは必要でしょうか?」

『そんなものはいらない。猶予は今月いっぱいだ…会社からもあのマンションからも消えてくれればいい…わかるね』

「はい…」

『当分の生活費は給料と一緒に振り込んでおこう』

「いりません」

『そう言わず受け取っておきなさい。高貴の将来を壊されても困るからね…』

要は、2度と関わらせない為にってことね…

高貴の夢を誰よりも応援しているのは私なのに…

だから、理不尽なやり方にも我慢して別れを選んだのに…

そんな風に言われるなんて…

私の手を握ってくれている優香の手をグッと握った。

受け取りたくない。

だけど…
この子を育てていくには、必要なお金…

「……わ…かりました」

くやしい…

無意識に下唇を噛んでいた。

『ふん、最初から素直にもらっておけばいいものを…余計な時間を取らせよって…わかっいると思うが、奴にはわしが関わっていると言うなよ』

「はい…」

『いい返事だ…それじゃ、こちらで今月いっぱいで君の退職手続きをしておこう。2度と高貴の前に現れないでくれ』

ガチャンと向こうの受話器が切れる音がし、私は、そっと受話器を元に戻して優香を見る。

「麗奈…辛いのに無理して笑わなくていいのよ……頑張ったわね」

溢れそうな涙を我慢している私に、そっとハンカチを差し出してくれる優香。

1人でだと、きっと耐えきれなかったと思う。

ここがロビーだということも忘れて泣いていただろう…

ハンカチを受け取り、涙を拭った私は気持ちを落ち着かせて仕事に戻った。

ーーーーーー
ーーー


肌をあわせた後、私を抱きしめたまま寝息を立てている男の肌と温もりと顔を忘れないように、こうして見つめていると、自然と涙が溢れてくる。

声を出さないように…
体が震えないように…

手のひらで口を押さえ、何度も拭う涙。

それなのに…いつまでも止まらない。

明後日までが一緒にいれる最後の日。

高貴に気づかれないように、荷物は最小限にして荷物は詰めてある。…ここに来た時と同じようにキャリーバックひとつで出て行く。

準備はできているのに…
なんて言って別れを切り出せばいいのか…

好きなのに…
愛しているのに…
ここにあなたの赤ちゃんがいるのに…

別れを言わなければならないなんて…
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