嘘から始まる恋だった
昨日の彼女の様子はおかしかった。
いや…ここ最近、彼女はどこかおかしかったんだ。
青白い顔をしているのに、化粧で誤魔化し無理して明るく振る舞う彼女が脳裏に過る。
俺を見る瞳が、何か語りかけていたはずなのに気づいてあげれなかった…
どうか間に合ってくれ…
俺が帰るまでマンションに留まっていてほしい。
できるなら、『私がいなくなると思って焦った⁈』って笑いながら笑顔で出迎えてくれることをスマホを手の平にぎゅっと挟んで指を組み祈った。
ーーーーーー
そして、マンションに…
駆け足で通り過ぎる俺にコンシェルジュが声をかけてくる。
「池上様、おかえりなさいませ」
そうだ…彼に連絡しておけばよかったと後悔した瞬間だった。
「先ほど、花崎様が荷物ひとつ持って出て行かれましたが……?」
顔面蒼白になっているだろう俺の顔を見て、何か気づいた彼は言葉を喉奥にしまった。
「……いつ、出て行った?」
「30分程前だったと思います」
30分か…
どこに行ったかもわからない彼女を追いかけるより、何か手がかりがないかと部屋に帰ってきた。
玄関の扉を開け、部屋中を見て回るとリビングにたたずむ俺。
綺麗に整理整頓され、麗奈の痕跡を消すかのように少しずつ増えて行ったお揃いの物が片ずけてあった。
お揃いのスリッパ、パジャマ、歯ブラシ
お揃いのマグカップにお茶碗、そして箸までもが消えていたのだ…
クローゼットには、最初に彼女に買ってあげた沢山の服が残されたままだったが、彼女が持ち込んだ物は何一つなかった。
そして…テーブルの上にある手紙
『高貴へ
あなたがこの手紙を読んでいる頃には私はどこか遠くにいるでしょう。
なぜって思っているわよね。
あなたと過ごした数ヶ月幸せでした。私の心と体を救ってくれたあなたには感謝しています。
でも、私はあなたが私を愛してくれればくれるほど辛いの。だって、同じ分だけの愛を返せないって…昨日、あなたが社長になる夢を語ってくれた時に、私はあなたを幸せにすることができないって思い知ったわ。
だから、あなたと別れます。
高貴、あなたの夢を必ず叶えて…
あなたが社長になったと聞く日を楽しみにしているわ。
幸せになってね
さようなら
麗奈』