嘘から始まる恋だった

自然と私の頬が赤くなり、見ていた皆が2人の関係に興味深々。

ロビーの隅にいる男に気づいた部長が、私の頭をポンポンと優しく叩き

「それじゃ、後でな…」

甘い声で微笑むから、私同様に優香も頬を染めエレベーターへ向かう部長にときめいていた。

反対に男は、しばらく苦々しく部長の背を見ていたが、受付にいる私に話しかけてくることもなく素通り…効果てき面だった。

優香は、そんな男の姿に
『部長相手じゃ、勝ち目ないものね』
とつぶやく。

そう思ってくれないと困る…
その為の共同戦線を結んだのだから……

お昼頃には、昨日の帰宅時間帯に会社前で一部始終を見ていた人が話を盛る。


そこで…
部長の作戦 2

わざと社内食堂で仲の良さをアピールすることだった。

隣同士に座り会話しているだけでいい。そうすれば、皆が勝手に盛り上がる。

最後の決めてとばかりに、部長が私の頭を撫でたり、手を繋いで優しく微笑めば誰も疑う人はいなくなり、1日で、社内公認のカップルになってしまったのだ。

部長ファンの妬みや嫉妬で、何かされないかと内心ハラハラしていた私だったけど…部長の溺愛ぶりに微笑ましいと言ってくれる人もいたし、あからさまな嫌がらせではないが、『なぜあの子なの』とかげ口を言われ睨まれるぐらい。

義兄の執拗な執着に比べればたいしたことないと聞き流すことができる。

無事1日目が終わり、更衣室で着替えているとLINEの着信音が鳴る。

画面を見れば、高貴さんの文字。

優香が覗き込んできて、肘を突っつき冷やかしだす。

最初、連絡先を交換した時には池上部長と登録していたのに、誰かに見られた時に変に思われるからと高貴さんと登録し直しさせられたのだ。

まさかと思っていたのに、こうして見られると素直に従って正解だったと胸をなで下ろしてしまう。

万が一にでも、何かの拍子に私が池上部長と登録していたと誰かが言いふらしでもしたら、疑う人が出てくるところだった。

優香の前で内容を確認する。

『麗奈、仕事お疲れ様。俺は少し、残業になりそうだ。すぐに終わらせるから向かいのカフェで待ってて…
PS…くれぐれも俺以外の男に気を許さないこと』

あらら、愛されてるわねと同僚が口に手を添えて微笑む。

他の人から見れば、追伸の文章は愛されていると見えてしまうのだろう…だけど、きっと、この意味は俺が来るまで義兄に用心しろってことなのだ。
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