嘘から始まる恋だった

この部屋に麗奈がいないとわかっているのに、あの愛らしい笑顔で俺の名を呼ぶ幻想だけがそこにいた。

寝付けない夜を過ごしても、朝はやって来る。

朝の光が差し込んでも彼女のいない空間は寂しい。

それでも、いつものようにスーツに着替えいつものように会社に向かう。

ロビーに入れば自然と目がいく受付カウンター

彼女はすでにいないだろうとわかっていても探さずにはいられない。

やっぱりいないか…

視線を感じ、視線を向けると野村さんと目が合った。
俺を睨むように見た後、すぐに視線を外され笑顔で社員を出迎える彼女を見て思った。

彼女は何かを知っていると……

グッと握り拳を作り、手がかりを見つけたとホッとするのもつかの間、早速問題が勃発する。

朝から会長室に呼ばれ、仕方なく向かうと…

「高貴、例の女だが100万ぽっちでお前と別れると言ったぞ。所詮、そんな女だったんだよ…お前にはふさわしくなかったということだ。お前にふさわしい女性はわしが選んだ…今週、土曜に顔合わせも兼ねて結納と結婚式の日取りを両家で話し合うから必ず出席するんだぞ」

「……」

言葉が出ない。
手際が良すぎる…やはり、裏で手を回していたんだと確信する。

100万ぽっちで麗奈が俺を捨てただと…
よくも平気でそんな嘘を…

麗奈がどんな気持ちで俺の前から消えたと思っているんだ。

「……好きにしてください。麗奈以外の女なら誰でも一緒ですから…」

俺は会長室を出て、壁に拳をぶつけた。

クソッ…

時間が足りない。

手始めに麗奈の居場所を野村さんに聞き出す為に彼女が1人になる時間を見計らい近づく。

「野村さん」

ギョッと驚くがすぐに冷ややかな表情になる彼女。

「なんですか?」

「麗奈の居場所を知っているね」

「……知っています。でも、麗奈の気持ちを考えたら教えられません。会長の決めた女性と結婚して社長になられたらいかがですか?」

棘のある言い方に怒りが湧くが思い留まる。

「……麗奈がいないなら大和の社長になっても意味がないんだ。麗奈に伝えておいてくれ……必ず、社長になって迎えに行くと」

社長…

麗奈が俺の夢だと言って叶えてほしいと去ったきっかけのこの言葉を強く言い捨て…

「近いうちに迎えに行くから彼女を頼むよ」

野村さんの肩をポンと叩き、俺は決意を新たにしその日から寝る間も惜しんで動いた。

2人の未来のために…
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