嘘から始まる恋だった
嘘つきな君を愛してる
高貴と住んでいたマンションを出て、直ぐその足で優香のコーポにやってきた私を優しく抱きしめてくれた優香。
『迷惑かけてごめんね』
『迷惑なんて思ってないよ。必要な物が揃うまでここに住むとして、とりあえず麗奈の部屋に案内するね』
鍵は、事前に大家さんから優香がもらっていたから困る事なく部屋に入ることができた。
何もないガランとした1DKの部屋。
突然の事だったから仕方ないのかもしれない。
安い家賃だから、文句は言えないけど…
荷物を部屋の隅において、部屋を見渡す。新たな人生をこの子と生きていかなければいけないから、無駄遣いはしたくない。
出産費用もかかることを考えると、最低限必要な物だけにしなければと改めて思い知らされた。
1人で育てるということの大変さが、最初から金銭面で浮き彫りになり、精神的な疲労と重なってムカムカとした悪阻が吐き気へと変わった瞬間だった。
トイレに駆け込み、便座を抱えて胃液を吐き出した。
大丈夫⁈と言って背中をさすってくれる優香。
1人じゃないんだとホッとするも…
側にいてほしいのは唯一人。
自分の意思でその人の手を離してしまったのだから…
耐えなければ…
そう思いながら意識が薄れていった。
誰かの話し声で気がついた私。
玄関先から聞こえる声に耳を澄ますと
『……俺がいない方がいいだろう…とりあえず、必要な物は部屋に運んでおいたが足りない物があるようだったら言ってくれ……』
『うん…ありがとう蒼さん』
『優香……麗奈のこと頼むな』
しばらくしてガチャンとドアの閉まる音がして、頬を染めた優香が部屋に戻ってきた。
蒼さんか⁈
優香の幸せそうな表情を見て、義兄とうまくいっているようで安心している自分がいた。
『麗奈、起こした?』
『ううん…私、どうしたのかな?』
上体を起こし優香を見上げるとベッド脇に腰掛ける優香が優しく微笑んだ。
『トイレで吐いて崩れるように意識をなくしたんだよ』
『そうなんだ…迷惑かけてごめんね』
『蒼さんがね……ここまで運んでくれたんだ』
私と義兄のことを知っているからか言いにくそうに言葉を選んで話し出す優香。
『麗奈のこと心配してね…必要な物揃えてくれたんだよ。……ごめん、蒼さんに言わない方が良かったかな?』
私の顔色を伺う優香。
『義兄さんに隠しごとしたくなかったんでしょう⁈』