嘘から始まる恋だった
ここまで、徹底して偽の彼氏を演じる部長に脱帽。
私は部長がピンチの時にこうして偽の彼女役を演じきることができるのだろうかと不安になってくる。
はぁ〜とため息を吐き打ち込む。
『高貴さん、お疲れ様です。向かいのカフェで待ってますから、残業頑張ってください』
生真面目な文章に優香が貸してと言わんばかりに奪い、打ち直しだした。
「送信」
はいと手渡されたスマホ
『高貴さんと一緒に帰れるなら待ってます(ハート)残業頑張って早く終わらせてくださいね。
PS…麗奈のお願い
待った分だけ、ギュって抱きしめてほしいな…』
となっていた。
えっ…えー
優香の顔とスマホの画面を交互に見つめるが、送ってしまった文章が消えるわけじゃない。
「ちょっと…なに、この文章。最初のハートマークと早く終わらせてくださいねは許せるとして、ギュって抱きしめてほしいなってなんなのよ」
「彼女なんだから、これぐらい入れないと…あんな生真面目な文章じゃ男心をくすぐれないわよ」
事情を知らない彼女に、どこまで言っていいものか⁈
本当の彼氏じゃないと言えば、義兄の事を説明しなければならなくなる。入社して仲良くなった友達だけど、まだ、全てをさらけ出せずにいる。
なら、会ったばかりの部長はどうなのかということになるが…
あの場面を見られたうえに義兄の二面性を知った男
私に向かってかけてくれた言葉
そして、待ち伏せしていた男から救ってくれた救世主
それだけで、私の中では信用に値する人物だった。
決して彼女が信用に値しない人物ということではなく、何も知らない彼女を巻き込みたくない気持ちがあるからだ。
彼女に義兄の事を打ち明けていればと後で後悔する日がくるなんてこの時は思わずに、私は彼女と別れ部長をカフェで待っていた。
1時間程待っているとスマホに部長からのメッセージが…
『今、会社を出たところ』
そして、数分もしないうちにカフェのドアが開いて部長が現れた。
「麗奈、お待たせ…」
部長が私の手を握ってきてドキドキしている間に、伝表をさっとテーブルからとり会計を済ませようとするから…
「自分の分なので、払います」
伝表を持った手を上にあげる部長から奪おうとしたが、パーツの長さにはかなわず、広い胸に抱きつく形になっていた。
「…麗奈の可愛いお願いは後で聞くから…これは待たせたお詫びとして俺が払うよ」