嘘から始まる恋だった
「どうなった?」
『…………談合……リーク……記者会見が始まる』
「そうか…こちらの勝ちだ」
通話が終えた義父の目が嬉しそうに私を見つめていると
「大変だ…大臣が、陸上競技場建設での○○建設会社との談合を認めたらしい。今から記者会見で大臣辞任の発表をするらしいぞ」
辺りは騒然となり、彼女の周りから人が消え気の毒そうに遠巻きに見守っている人々。
彼女は何がなんだかわからない様子。
そこへ、会いたかった人が彼女に近寄って行く。
彼女の肩をポンと叩き、耳打ちする男。
彼女は、今にも泣き出しそうな顔で彼を睨みつける。
そこに社長と会長が現れるが、彼女に声をかけることもなく横を通り過ぎていった。
彼女は、無視された事でわかったのだろう…
ワナワナと震え、顔を両手でおおうと早歩きでその場から離れて行く。
彼女の後を追うのは、母親らしき人と恰幅のいい男性だけだった。
そんな彼女達の背後を見てしまう私。
かわいそう…
よかった…
どちらも私の本音だった。
そうこうすると広間からアナウンスが聞こえる。
ロビーにいる人々は、先ほどの出来事を忘れたように談笑しながら中へと入っていく。
所詮、他人事なのだ…
大臣の職を失った男より、これから大和建設を担う男にゴマをする事の方が彼らには大事な事なのだ。
人のあからさまな行動に、社会の仕組みが垣間見えた。
自分の利益にならないものを切り捨てる潔さ。
私は、現実に向き合えるのだろうかと不安に苛まれていた。
私を熱く見つめる視線に気がついた時
目の前に立つ男は、少し頬がこけたが相変わらず端整な顔をして益々魅力的になっていた。
「……麗奈、久しぶりだね」
「……お久しぶりです。専務に昇進おめでとうございます」
何度も喉仏を上下させて黙り込む彼
「……」
私を頭上から見つめる視線に合わせられなくて、彼の喉仏を直視してしまう。
「来てくれてありがとう…」
「……」
今度は私が黙り込む番だ。
「麗奈、おいで…」
高貴に手を握られ会場の入り口に入ろうとしていく。
私は、背後を振り返り義父を見つめると手を振り笑顔で見送っている。
えっ…
どうして?
「……ねぇ…待ってよ」
踏み止まろうと踏ん張るが歩くスピードは止まらない。
「ねぇってば……」
「もう、待たない。十分に待った。そんなに力強く踏ん張ると転ぶよ」