嘘から始まる恋だった
転ぶ⁈
頭によぎったのがお腹にいる赤ちゃん。
無意識に手を添えてお腹をかばう私。
踏ん張る足元の力も緩めて、手を繋がれたまま一歩一歩と高貴についていく。
「どこ行くの?」
高貴にしか聞こえない声で問うのに、振り向いてただ微笑むだけで答えてくれない。
ホールにいる人々からの注目される視線に息がつまりそうなのに、最上段の前まで連れて行かれてしまう。
そこで初めて高貴の足が止まる。
私の手を繋いでいる高貴の手が入れ替わり、男の手に手を添えるように乗せられると今まで繋いでいた手が結んである帯に手を添える。高貴の足が一歩壇上に上がり、そっと前に押し出してくる。
訳のわからないままに、押され勢いで一歩足を踏み出すと自然と追いかけるもう片方の足。
壇上の上に完全に乗ってしまった。
そのまま添えた手を優しく掴んだ高貴にリードされて壇上の中央に2人で立っていた。
ざわつく人々の騒音の中から
「高貴、何をしている?その娘から離れないか」
会長が怒り叫んでいる声が聞こえてきた。
私は、会長の声に驚いて高貴から離れようと添えていた手を抜こうとするのにぎゅっと握られ手が抜けない状態にあたふたとしてしまう。
どうして?
何をしたいの?
高貴の顔を見上げ戸惑っているのに、当の本人は涼しい顔をして中央にあるマイクの音を確認している。
そして……
「お静かにお願いします」
ざわつく人々が一瞬で静かになった。
高貴から発せられる次の言葉を今かと待っている様子に、息を飲む私。
この状況が理解できないのだから、高貴が何を言うかと見つめるしかないのだ。
「この度は、我が社の創立記念パーティーにお集まりいただきありがとうございます。皆様もご存知だと思いますが私は専務の池上です。そして、こちらにいるお嬢さんは『自遊空間建設事務所』の社長であり大和建設前、専務である常盤さんのお嬢さん麗奈さんです。彼女は私の婚約者です」
えっえー…
何を言い出すの⁈
「そんなことは認めんぞ」
横から会長が怒鳴っているのに
「あなたに認めて頂かなくても結構です」
「何を…」
壇上に上がって来ていた会長に向かって顔色も変えず淡々と続けていく男。
「色々と世間では私の結婚話で噂されていましたが、私がこの世で愛する女性はただ一人。そして、生涯側にいてほしいのはここにいる彼女しかいません」