嘘から始まる恋だった
高貴の言葉に嬉しさで叫んでしまいそうで口元を手のひらで覆う。
高貴の顔を見つめれば優しい眼差しで私を見つめ返してくれる。そして、口元が口角を少し上げて微笑んでいる。
「高貴、…一体何をしているんだ。…専務になったのに…台無しにするつもりなのか?」
声を荒げ息を切らしながら怒鳴り散らす会長。
「あなたの駒になるつもりはありません。専務になったのも私の顔を売る為に利用させて頂いただけですよ。もう、利用価値がありませんし本日付けで退職させて頂きます。もう、手続きは済んでいますので悪しからず。そして、明日より『自遊空間 建設事務所』の社長に就任致しますので皆様今後ともよろしくお願いします」
ざわつく中、私の頭の中はパニックだ。
どういうこと?
訳がわからない。
「…な、なんだと…高貴、全てはこの女のせいだな」
今にも殴りそうな勢いで私に飛びかかってくる会長を制したのは高貴だった。
「やめてください。彼女のお腹には私達の子供がいるんです。彼女とお腹の子に何かあったらお爺様とはいえ容赦はしませんよ」
険しく顔を歪める高貴に会長はたじろぐと高貴は会長に近寄り小声でトドメをさす。
『あんたが麗奈にしたことをここでバラしてもいいのか?会社の為に俺たちの仲を引き裂こうとした事を知ったらここにいる人たちはどう思うかなぁ⁈世間体が悪くなるんじゃないのか?…ここで公認したほうがあんたの為にもなるんじゃないのか⁈』
ワナワナと震える会長は、私を睨むと目を閉じフーっと息をつぐと何かを決心したように笑みを作った。
そして、マイクをとると
「皆様、お騒がせして申し訳ありません。突然の高貴の話に驚かれた事でしょう。実言う私も驚いて戸惑ってしまい、みっともない姿をお見せしまいました」
あはははと笑う会長にホールのいる人たちも薄笑。
「高貴の為にもと思い縁談を進めていましたが、高貴にこんな素敵な女性がいるのならば無理に縁談を進める必要はなかった。知らなかったとは言えすまなかったね…彼女のお腹に私の曾孫がいるとは嬉しい限りです。家族を持つことで大和の名前に胡座をかくのは不本意らしく高貴は大和から離れて常盤君の元で学んでいくようです。私としては孫が離れてしまうのは寂しく思います。ですが可愛い孫には変わりありません。皆様どうか高貴の力になってやってください」
頭をホールにいる人々に向けて下げる会長にあちらこちらから拍手が湧く。