嘘から始まる恋だった
突然の常盤専務の退職にしばらく社内は落ち着かない。俺は専務の仕事を引き継ぎながら、会社を立ち上げる為にあちこちと手を回し、寝る間も惜しんで働きずめの俺に衝撃の連絡がかかってきたのは時計の針が夜中の12時を過ぎ帰宅した頃だった。
『高貴君…落ち着いて聞いてくれ……麗奈ちゃんが……倒れたらしい』
常盤専務、いや、常盤さんからの悲痛な声に耳を疑いたかった。
「……」
『聞こえてるかい?』
「……麗奈は、彼女はどこに?どうして倒れたんですか?どこか悪いんですか?」
矢継ぎ早に質問する俺は、落ち着いていられないまま玄関のドアノブに手をかけて外に出た。
『病気とかではないから安心して。ただ、脱水症状と栄養失調が原因らしい。麗奈ちゃんは市民病院に搬送されて今は点滴のおかげで眠っているそうだ』
病気ではない事にホッとするのも
『ただね……麗奈ちゃん妊娠しているんだよ。3ヶ月ぐらいらしいんだが君の子供で間違いないよね⁈』
声のトーンが重くなる常盤さんは、義父なりに心配して確かめたいのだろうが、麗奈が妊娠しているなんて初耳だ。
驚きを隠せないまま
「…俺の子供です」
脳裏に浮かぶのは体調が思わしくなかった青白い顔の彼女の顔だった。
『それを聞いて安心したよ。僕はもしかしたら君の子供じゃないから君から去ったのかと疑ってしまっていたんだ。申し訳ない』
「いいえ…心配されなくても俺の子供に間違いありません。辛い思いをさせて申し訳なく思っています。もっと早くに気づいていればこんなことにならなかったかもしれません。俺は、いまから彼女に会ってきます」
彼女を感じたくて避妊なんてしていなかった。そうなればいいと願いながら彼女を抱いていた俺は浅はかで愚かで自分勝手な男だったと己自身を叱咤する。
『夜間だから面会ができないだろう。君も疲れているんだ…明日にしたらどうだい?』
「いいえ…俺の疲労なんて彼女の辛さに比べればたいしたことありませんよ。まだ、彼女を迎えに行ける術は俺にはありません。ただ、顔を見てくるだけです」
『うん…そうだね。こちらも動き出したしお腹の子が生まれるまでにはなんとかしたいから急ピッチで事を進めるよ』
「こちらも、あちらの弱みを入手しました。タイミングを見計らって流出するつもりです。それまで、麗奈をお願いします」
『もちろんだよ。だが、君が大和を辞めるタイミングを間違えれば全てがおじゃんになってしまう』