嘘から始まる恋だった
「対策は後ほど考えましょう。それでは…また。連絡ありがとうございました」
『じゃあ、また。無理をして体を壊さないように…おやすみ』
プチッと切れた電話をポケットに入れて駐車場に置いてある車に乗り込んだ俺はエンジンをかけて彼女がいる病院に向かった。
ナースセンターに行けば夜間と言うことで面会は禁止と言われる。
だが、そこで引き下がる俺じゃない。
「倒れたと聞いて会いに来たんです。無理を承知でどうかお願いです……顔を見るだけでいい。あわせてください」
頭を深々と下げる俺の後ろから声がした。婦長らしき人物に看護師達が背筋を伸ばした。
「5分…その間、誰も巡回しないで緊急ミーティングしましょう。315号室の花村さんの食事ですが体調をみながら……」
ボーとその様子をただ見ていた俺に目配せをして1人ごとのように話しだす婦長らしき人物…
「花村さんは315号室でしたね。点滴が切れるのはいつ頃ですか?」
「後、5分後です」
別の看護師が答え、そこにいる数人の看護師が俺に目配せする。
まるで早く行けと言わんばかりに…
あー、そう言うことか。
ありがとうございますと深々と一礼して俺は彼女がいる病室に向かった。
病院ベッドの上で眠る麗奈は、しばらく見ない間にやつれ抱きしめたら壊れてしまいそうなほど痩せていた。
彼女の手を取り、手の甲に頬ずりする。
ごめん…俺の為に君は……
俺の頬を伝う涙が彼女の手を濡らす。
もう少しだから…麗奈の気持ちを無駄にしない。どうか、俺を忘れずに待っててほしい。
「愛してる」
彼女の唇にそっと思いを込めてキスをした。
必ず、麗奈を幸せにするから…
病室を出て、ナースセンターに顔をだす。
「ありがとうございました」
「今日は、たまたま急なミーティングが行われただけですよ。明日からは時間を守ってください」
「いえ、まだ彼女に会わせる顔がないんです。寝ている彼女に会えただけで、俺は立ち向かって行けそうです」
苦笑する俺に看護師の人は目を閉じ何か考えるとどこかに電話をした。
そして…
「面会時間は9時までですが、付き添いの方なら何時でもいいんですよ。付き添いの書類にサインされますか?」
「えっと…ありがとうございます」
親切に目を潤ませていた。
後から聞いた話しでは、普段はそんなことはしないらしい。
まぁ、常識からいってそうだろうなと後で聞いて思ったが、俺のあまりの必死さにドクターから許可が出たと言うことだった。