そのキスで教えてほしい
たかが『可愛い』と言われただけで二十五歳の女がなにそわそわしているのよ、って感じだけれど、キスのこともあるから気になってしまう……。

だけどこれ以上、彼に惹かれてはいけない。
普段は優しく穏やかでも、女性に対しては軽い考えを持っている人だと思うから。

そんな人を好きになったら、絶対に駄目。

大丈夫。今は色々ドキドキしてしまうかもしれないけれど、そのうち慣れてキスのことも忘れるはずよ。

「崎坂!」

二人で並んで階段を上ろうとしたとき、後ろから彼を呼ぶ声がして、私は反射的に顔を向けた。

「湖島か。おはよう」

崎坂さんは自分の隣に並んだ男性を見ながら挨拶をする。
湖島 誠一《こじま せいいち》さんは崎坂さんの同期で営業部。

社内で崎坂さんと話しているのを何度か見たことがあり、名前も周りが呼んでいるのを聞いたことがあったから知っていた。

短髪のすっきりした髪型と、屈託のない笑顔をいつもしていて、見ただけで元気な印象が伝わる。

私が一応会釈をすると、向こうも軽く頭を下げた。
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