そのキスで教えてほしい
歯を見せて笑った湖島さんは、いつも通り元気な湖島さんに戻っている。
私が微笑むと、手を振り歩いて去っていった。

再び一人になって、無意識にため息を落とす。

結局頭に浮かんでくるのは崎坂さんのこと。
そしてまた最悪だと思って……でも頭から離れない、彼のこと。

息を大きく吸って上を向いた。
感情って難しい、なんて考えながらお茶を最後まで飲み、デスクへ戻る前にトイレへ寄ろうと、通路を歩いた。

そして女性用トイレの入り口近くまで来たとき、中で話す女性たちの声が聞こえてきて、ちょっと話声が大きすぎだよと、歩くスピードを緩めた。

お昼みだから女子トークに花がさいちゃうのは仕方ないけれど。

違うトイレにしようかなと、戻ろうか迷っていたとき。

「ねぇ、聞いたよ? 崎坂さんと飲みにいったんだって?」

思わず私は入口の手前で足を止めてしまった。

「崎坂さんとっていっても、他にも人いたよ? 営業の湖島さんと、あと鈴沢さんもいたし」

「へえ、なんか不思議なメンバー」

「だよね、私もそう思った。でも湖島さんと崎坂さんは同期じゃん。で、鈴沢さんと崎坂さんは仲いいらしくて」

「ふうん。デスク隣だから?」

「さぁ? そこに私がなんとなく呼ばれたらしいけど。でも楽しかったよ。崎坂さんがさ、超かっこよくて!」

「いいなぁ、崎坂さん本当にカッコイイよね」
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