そのキスで教えてほしい
「あの……」

恐る恐る声を出すと、彼の手が止まって整った顔が私の方へ向く。

「どうした?」

平然とした普段通りの声で、私を見つめる瞳が瞬きをしたとき、堪らず俯いた。

「二人きりでお話したいことがあるんです。今日の仕事終わり、大丈夫ですか?」

この前話をしたいと言った崎坂さんに『話したくないです!』と言ったばかりだけれど。どうしても、彼に謝りたかった。
ゆっくりと視線を上げると、崎坂さんはじっとこちらを見ている。

駄目か……。そう思ったとき、彼は視線を私からパソコン画面へ戻した。

「わかった。仕事終わりな」

そう言いながら崎坂さんは再び指を動かした。

私はほっとして「お願いします」と小さく頭を下げたあと正面を向き、午後の仕事にとりかかった。

そして勤務時間が終わると、隣の崎坂さんにこっそりと声をかけ、彼と五階フロアの通路の奥、非常階段へ続くドアのある窪みへ向かった。

「ここでいいのか?」

「はい」

お店などに向かう気持ちの余裕がなかった。
一刻も早く話をして謝りたくて、ずっとそわそわしていたのだから。

休憩スペースよりここの方が目立たないし、人も通らないだろう。

「すみませんでした!」
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