そのキスで教えてほしい
「鈴沢が俺のことそういうヤツだって決めつけてたから。違うって言ったって、どうせ疑っただろ?」

「あ……」

迫るように私の顔を見てきた崎坂さんに、言葉が詰まる。

確かに、私はあの時『二人は抱きあっていた』と思い強いショックを受けて、感情をコントロールできていなかった。

崎坂さんに違うと言われても嘘だ、と信じなかったかもしれない。

だけど、やはり何か納得できなくて。

「……それでも、あの時説明して誤解だとわからせてくれたら、私は泣かなくてすんだのに」

ぼそっと言って、はっとした私は口許を両手で押さえた。

「へえ……鈴沢、泣いたのか」

「違っ」

言う必要のないことを言ってしまった。
恥ずかしくて、そばにいる崎坂さんから距離をとるために後退ったけれど、すぐ背中に壁があたった。

「何で?」

崎坂さんは口許を緩め、壁に手をそっとついて私を覗くように見てくる。

「俺が他の女に手を出してるって思って悲しくなった?」

「っ……」

見つめられてどうしようもなくて崎坂さんから顔をそむけると、彼に顎を軽く掴まれて正面を向かされてしまった。
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