そのキスで教えてほしい
崎坂さんの優しさに高鳴る胸をなんとか押さえ、作業に集中した。

「お疲れさまでした」と、次々に他の社員が帰っていき、いつのまにかオフィスには二人きりになったけれど。

作業をしているときはまったく気にならなかった。

「あー……終わった!」

椅子に背もたれて脱力して、解放感に私は頬を緩めた。

「お疲れ」

デスクに頬杖をついてこちらを見る崎坂さんは微笑む。

夜の九時半。やっと終わった。
余計な仕事をしなければもっと早く終わっていたのだけど。

隣の崎坂さんはぼうっとした表情でマウスをいじり、ファイルを保存し始めた。

遅い時間まで付き合わせてしまい、申し訳ない。

「崎坂さん、自販機で飲み物買ってくるので待っていてください」

「んー……ああ、ありがとう」

立ち上がった私を横目で見た崎坂さんは、やわらかく唇の端を上げた。

それがやたらと色っぽくて、夜のオフィスで二人きりというのを急に意識した私の鼓動が、ドキンと跳ねた。
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