そのキスで教えてほしい
私は湖島さんを見つめて固まっていた。
だって、急すぎるもの。
先程までの会話の流れで誘われて……。

「ていうか鈴沢さん、好きな人がいる……よな?」

「え、えっと」

窺うように訊いてきた湖島さんに、胸がドキンと跳ねた。
浮かんでしまったのは崎坂さんの姿。
それを違う、と打ち消すことはできなくて言葉をためらう。

「……まぁ、もしよかったらってことで。どっか行こう。――よし。おう! 崎坂!」

湖島さんが通路の方を見て声をかけた相手に、私は更に胸の鼓動を速くさせてしまった。

顔を向けた先、崎坂さんがこちらに歩いてくる。

「湖島、お前……」

少し低いと感じる声を出した崎坂さんに、息苦しくなるくらいドキドキしている私。

「じゃ、じゃあ、私オフィス戻ります」

崎坂さんが目の前に立った瞬間、逃げるように私は自販機から離れた。

『好きな人』と言われて想い浮かべてしまった相手。
何を考えているのかわからない人……。

これ以上、好きになりたくない人。
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