そのキスで教えてほしい
オフィスに戻り自分のデスクに着いた私は、騒ぐ鼓動を抑えるのに必死だった。

本当はずっと前からわかっていた、彼への気持ち。

惹かれないようにしよう、なんて、無理だった。
キスをされて、意識しないなんて不可能。

すぐ後ろで足音がして、崎坂さんが隣に座ったのを視界の端でとらえた。

鼓動がまた速くなり、胸を締めつける。

どうしたらいい?
この気持ちはどうしたら満たされるの――


勤務時間が終了し、「お疲れさまでした」と他の社員がオフィスを出ていく姿を目で追い、私もすぐにパソコンのデータを保存し、電源を落としてデスクの上を片付けた。

今日は早く帰りたい。
乱れた心を落ち着かせたかった。
崎坂さんの隣から離れたかった。

余計なことばかり考えている自分が嫌。
「お先に失礼します」と、残っている人に挨拶をして私は早足で通路へ出た。
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