そのキスで教えてほしい
「鈴沢!」

すると、後を追うように声をかけられ、びくっとなりながら私は振り返る。

私を呼んだ声は、崎坂さんだった。
彼は歩幅を広げて私の元までやってくると、厳しい目で見下ろしてきた。

「なんでそんなに急いでるんだ」

「いえ……別に……」

私は俯いた。
あなたのそばから一刻も離れたかったなんて、言えるわけがない。

「……あの、私に何か用ですか? 今日中でなくてもいいなら、明日に――」

「来いよ」

崎坂さんが私の腕を掴んだ。
そして引っ張りながら歩き出す。

「ちょっと、さ、崎坂さん!」

急に強く握られ引っ張られ、何事なのかと崎坂さんの背中を見つめるけれど、彼は淡々と進んでいく。

そのまま強引に連れてこられたのは、以前崎坂さんに謝ったときに彼を呼びだした、非常階段のドアの前だった。

「あの、なんですか急に……!」

痛いくらいに掴まれていた手が離れ、じんじんする自分の手首を触りながら私が声を出すと、崎坂さんが私の右肩を掴んで壁へと体を押しつけた。
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