そのキスで教えてほしい
「確かに、最初の鈴沢への気の引きかたは軽そうな男に思われても仕方ないものだけど。でも、ある程度強引にいかないと意識してもらえないだろ」

崎坂さんは手を壁から離すと、くしゃりと前髪を触ってばつの悪い顔をした。

前に崎坂さんが言っていたことを思い出す。会社の前でわたしに見せつけるようにキスをしていたのは『俺のこと、意識させたかった』と言っていた。

からかっているのかと思っていた崎坂さんの行動は、わたしの気を引きたかったの? 好き……だから?

「……まぁ、迫ったときに下心がアリすぎたというのは認めるけど。それでも、気になるから構ってたし鈴沢だからキスした」

「崎坂さん……」

「隣のデスクで仕事頑張ってる鈴沢をよく見てたんだよ、俺は」

崎坂さんは額に手を置いて、困ったような顔をしながら私を見た。

そんなの、気づくわけがない。
だって崎坂さんは人気があるから、仕事以外では別世界の人で、わたしなんかがそういう対象に見てもらえるわけがないと思っていたもの。

よく仕事のことを気にかけてくれていたけど、それは同じ課でデスクが隣だから、特別なことではないと考えていたし。

「なんなんですか、もう……私、ずっとからかわれてると思ってて……」

「いつ俺がからかってるって言ったんだ」

「遊ばれるのは嫌だと思ったし……」

「鈴沢で遊ぶなんて一言も言ってないだろ」

「っ……、崎坂さんっ」

込み上げてくる気持ちが苦しかった。
早く外に出したかった。

「……好き、なんです。私、崎坂さんを好きになっ――」
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