そのキスで教えてほしい
言葉を最後まで発することはなかった。
ぐいっと肩を抱かれて、崎坂さんが私の唇を塞いだから。

それは初めて、強く重なった。想いが溢れるようで。
そして優しく離れると、崎坂さんは私を抱き締めた。

「俺もお前が好きだから……だから、湖島のところには行くな」

耳元で掠れた声が響き、甘い目眩がしそうだ。

「……ません」

「うん?」

「誘われて、ません」

「……は?」

崎坂さんは私から体を離し、覗くようにして私の顔を見た。

「湖島さんには休日遊びに行こうって言われて、それも、もしよかったらみたいな感じで」

困惑しながら私が伝えると、崎坂さんは脱力して溜め息を吐く。

「……お前なぁ」

そして息の抜けた声を出し、私を抱きしめた。

「勘違いして鈴沢を追いかけたとか、カッコ悪すぎだろ。どうしてくれるんだよ」

「あはは」

「なに笑いだ、それ。……ああ、もう」

なんだか余裕のない崎坂さんは、私を抱く腕に力を入れたあと、ゆっくりと体を離して私を見つめた。
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