そのキスで教えてほしい
「いつも余裕な崎坂の顰めっ面はいいなー」

「湖島」

「はははっ。じゃ、俺早めにデスク戻らなきゃいけないから。今度ゆっくり飲みにでも行こうぜ。じゃあなー」

陽気な声を出し、飲み終わったコーヒー缶を捨てると、湖島さんはにっこり手を上げて去っていく。

私は軽くお辞儀をして微笑み、湖島さんの背中を見送った。

そして、隣にいる崎坂さんへと視線をうつした。

崎坂さんの顰めっ面……。
確かにいいかも。
湖島さんはからかえて面白いからだろうけど、私の場合、眉根を寄せている彼がなんだか可愛く見えてしまう。

頬を緩める私に気づいた崎坂さんが、更に眉間の皺を深めた。

「なんだよ」

「いえ、別に」

「由麻」

崎坂さんはむすっとした表情だけれど、名前を呼ばれたからどきっとしてしまった。
今まで『鈴沢』と呼ばれていたのに……。

くすぐったくて、はにかみながら私は俯いた。
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