凸凹を喰え

 俺もここへ来た当初、数年は半狂乱だった。

 パソコンの中から出られない。

 パソコンの中に居るのは分かる。

 見えているそこは今まで俺がいた椅子だからだ。

 その向こうにはソファーもある。

 間違いなく俺の部屋だ。

 しかし透明の壁があるかのように出られない。

 叩いても感触すらなかった。

 気づけば気を失っていた。

 その繰り返しの中であるときふと軽くなるのを感じた。

「私、戻るね。あなたも戻れる。だから進みなさい」

 俺を半狂乱の地から救ってくれた女の人が最後にそう笑いかけ、消えて行ったのを目の当たりにしてからというもの、一心不乱に喰うことに専念した。

 彼女は確か昭和十年七月にここへ来たと言っていた。

 ここを出てからどうなったのかは知らない。
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