無理矢理な初めては、ドSな幼馴染みだった。
相手役として来た男は幼馴染みだった。

最悪な連絡

ここはとある東京の一角のお店。
いかにも高級そうな見た目をした黒いドアを開けると、そこにはシャンデリアや噴水などのきらびやかな内装、そして、まばゆいドレスに身をまとった美人達が待ち構えている。

そこは、男にとってはこれ以上にない幸せな空間を造りあげるが、女にとっては自分の男が浮気をする可能性が高まるという、
ただただ自分達にとって邪魔な施設であった。

私の名前は、水野あい。
女性達からの大きな反感を買う、少し背徳感を感じるような店で、ドレス類に身を包み、男たちを待ち構えている女の中の一人なの。

罪悪感?そんなのないわ。
だって、私は故郷を捨ててまでここに来て、お金をいっぱいもらっているんだもの。

私が働いているこのお店は、キャバクラと風俗が一体化した建物となっているの。
そのため、多くのキャストは、キャバ嬢として男の扱いを修得した後、今度は風俗嬢としての男の扱いを求められるといくわけ。ちなみにこの階級UPの方式は、だいたいはエレベーター式で、働く年月が長い程風俗嬢に抜擢される確率が高くなるの。

だから、ここで長い間働くということは、自分が風俗嬢にランクアップすることを自ら望んでいる、ということを認めているということになるってこと。
そのためなのか、最近は新人もビッチの非処女が多くなってきているのよねー…。

まぁ、キャストが増えることはこちらにとっても万々歳なんだけど、元ヤンとかだからか、マナーが守れていないとか、初歩的なミスが多いから、慎んでもらいたいなー、なんて正直思ってる。


ここまで、この私が働いている店のシステムについて解説してきたわけだけど、ついに私にも昨日、風俗嬢への昇格(私は嫌だが)の通知が来てしまったの。

びっくりでしょ?

ここの店では、風俗嬢になる前に何度か、相手役の男性と行為を行い、男性に慣れた後、実際に働くことが可能となる…。というきまりがあるの。

だから、この研修の一ヶ月間で処女を失うキャストが大半だってことね。(無理に彼氏を作って処女を捧げたとしても、相手選びをミスっていたら最悪だし…)

相手役の男性は選べないから、胸毛がぼうぼうな、臭そうなおじさん等に当たっちゃったら、それはそれは大変なことになるのよね。
(逆にイケメンに当たると、その女はイスを振り回す程の勢いで喜ぶけど)

……私には、どんな男性が割り当てられるのかなー。

そう考えると、接客中も胸がドキドキしてしまった。

風の噂で聞いたんだけど、今年の相手役を努めてくれる人は、この店の向かいのビルにあるホストクラブから抜擢された人らしい。
そのため、超絶ブサイクに当たることはない…とは思うんだけど。


…ブサイクといえば、去年、運悪くオタク風の「とんでもないブス」に当たってしまった先輩がいたんだよなー。

先輩が処女を失う瞬間の、絶望した顔を私は忘れられないな。

私は一人で苦笑した。



…去年の回想に浸っていると、ふと、私の携帯が急に鳴りはじめた。
送られてきた番号を見てみると、どうも、会社のオーナーからの電話のようだ。

話といったらあのことしかない。


私は、震える手で、[通話]ボタンを押した。


…あれ、おかしいな。

なんでこんなに手、震えてるんだろ。




「…はい、もしもし。水野です。」
私がそう応答すると、電話の主は、
「水野君か。」
と淡々とした声で答えた。
声から推測するに、やはり社長のようだ。

「…お忙しいところ、ありがとうございます。
…それで、用件というのは…」

私がこのお決まりのフレーズを言うと、社長は待ってましたとばかりにあきれたような声で言った。


「君も分かっているだろう。
研修のことだ。今さっきの対談で、予定期間が決定した。」


社長の声は少し興奮していた。
研修を撮ってAVにでもして売るのだろうか。
 

「そう、ですか…」


私はもうこの話が出ると分かりきっていたけど、あえて驚き、落胆したような声を出した。



予定期間。
その名のとおり、研修が予定されている期間のことだ。
これによって、私のテンションが左右されることになる。
ちなみに去年は電話から二ヶ月後だったらしい。

私は続ける。

「それで、その、期間というのは、今からどれくらい後にあるのでしょうか?」

「二時間後だ。今出勤していると思うが、仕事が終わったらそのままホテルに直行だ。他のキャストへの連絡もまだ残ってるからそろそろ切るぞ。じゃあな。」


……… 電話は、あっけなく切れた。



社長が提示した時間は、二時間後。

この店が開店してからこれまで、電話から最短の期間ではないだろうか。
というか絶対そうだ。


五分後にすでに予約が入っているため、今から家に帰って処女である時間を堪能するということも、もうできないだろう。

ここで処女を全うするしかないというわけだ。


私は、震える足でスタッフルームを後にし、処女最後の接客をする部屋へと早足で向かった。
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