ブレスフル クリスマス
「いらっしゃい」

しばらくボーっとしてた私に
サンタさんみたいな笑顔のおじさんが
カウンター越しに挨拶してくれる。
時間は夕方5時前。
今は他にお客さん、いてへんみたいや。

「こちらへどうぞ」
そう言って
カウンターのスツールを右手で案内してくれる。

「なににしますか?」
おじさんがオーダーを聞いて来る。
「コーヒー!めっちゃ濃いヤツ!ぶらっくで!!」
勢い込んだ私に
おじさんは少し驚いたように目を丸くしたけど
「かしこまりました」
また優しい笑顔になった。

「お待たせ」
おじさんが私の前にコーヒーを置いてくれる。
コーヒーってこんないい香りするもんやったんや・・・。
改めてそう思わせられるほどの香り。
私、少しゴクッとツバを飲んで・・・
カップに口をつけて、一気に飲もうとすると・・・・・・

「ブハッ!!」

う~!にがっっ!!
私、ホンマはブラック飲まれへんねん!!

「だっ、大丈夫かいな!?」
おじさんが慌ててタオルを差し出してくれる。
「すいません・・・」
タオルを受け取ってコーヒーを拭く。
「服、シミになってへん?」
「たぶん、大丈夫です・・・」
「ブラックなんか飲まれへんねんやろうなぁゆう気はしたけど、そんな豪快に吹き出すとはなぁ!」
おじさんはあはははと大きな声をあげて笑い出した。
なんかもう恥ずかしすぎるわ・・・。

「ヤケ酒違(ちご)て、ヤケコーヒーか?」

おじさんにそう言われて
思わず、パッと顔を見ると
「図星か・・・」
少しだけ苦笑いをした。

しばらく沈黙が続いた。
私の好きな『そりすべり』が流れてることに気付く。

「それやったら・・・帰ってもらわれへんなぁ」
おじさんが口を開いた。
「ウチの店な、『来た時より少しでも幸せな気持ちが増えて笑顔で帰ってもらう』ってのが理念やねん。そんな顔してたら帰らされへん」
私、今きっと、すごい不幸な顔してるんや・・・。

そんな私におじさんが笑顔で言った。

「せやから、ウチでバイトせぇへん?」
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